フッと息を吐き、貴織は駆け出した。普段の自分では考えられない、ダッシュだ。瞬く間に禍津邪妄の傍までたどり着くと、相手の腕を掴み、そのまま、地に叩きつける。だが、相手は人ならざる存在。ダメージとなっているわけではないらしく、両手で地を叩くようにして、跳躍した。そのまま、空中で体をヒネり、貴織めがけて片方の拳を落としてくる。それを片腕で受け、受け流すようにして、もう片方の腕で、相手を掴み、投げた。 だが、いかなる力か、途中で方向転換し、貴織に向かってきた。とっさの事で反応できず、敵の一撃を肩に受け、貴織は仰向けに倒れた。そこへ、禍津邪妄がのしかかる。 重く、苦しい。相手の片腕が貴織の首に掛かり、くびろうとする。その刹那、光線が幾筋も走り、そのうちの一本が邪妄を噴き飛ばした。 「サンキュ!」 起き上がって、比呂樹に礼を言い、身をひねって、邪妄の腕を掴む。 「さっきは痛かったわよ!」 骨が折れているような事はないだろうが、青あざぐらいには、なったかも知れない。 相手を振り回し、何度も地に叩きつける。それだけでは気が収まらず、そのまま蹴り飛ばした。その先には、比呂樹がいる。銃口から青く光る弾丸が吐き出され、邪妄に命中した。その衝撃で、こちら側に飛んでくる。間髪入れず、踏み込んで、右拳を撃ち出した。 中心にある、黒い球体を正確に捉え、禍津邪妄が二つに割れる。二つの腕が地に墜ち、蛇のようにのたうつ。その光景を生理的に受け入れられず、貴織は、何度も何度もその腕を踏みつけた。もしかしたら悲鳴のようなものを上げていたかも知れない。 やがて、黒い粒子を振りまきながら、禍津邪妄は消滅した。 「終わったな」 比呂樹が言った。 「ええ、そうね」 肩で息をしながら答えると、比呂樹がニヤついて、言った。 「すっごい眺めだ」 その言葉に、自分を見ると、着物が乱れ、裾がはだけていた。 「帝都文明亭で、晩メシ、食おうぜ!」 ニヤついて、頬を紅くしている救世心に声をかけると、こちらを見て比呂樹が言った。 「お前も来るか?」 貴織は自分の姿を見る。 袖は焼け落ち、裾はズレてて、帯から締め直さないとならない。いや、帯を締めても、おそらく裾から脚が出てしまうのは確実だ。何せ、一部分、布地が焼けてしまっているのだから。 「こんなカッコで、行けるか! バカじゃないの!?」 服を直しながら、貴織は叫んだ。
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