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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第33回   弐の三
 貴織は、金の勾玉を、溜息とともに掴む。どうして、こちらが自分に降りてきたのか。
 そして、咒を唱える。
「鎧念招身(がいねんしょうしん)」
 周囲に虹色の粒子がちらついたのも一瞬。元の着物姿と変わらない。一方の比呂樹は、白いコートを羽織った姿。ちゃんと「ヨロイ」をまとっている。
「金の勾玉の時は、なんで、あたしの場合、このまんまなのかしら」
 ぼやき、懐からブランクカード……何も印刷されていない、縦十五センチ、横九センチサイズの、カードを出す。鎧念の召喚で出現したカードだ。そして、咒を唱えた。
「Zir、Aldon(ゾード・イー・レイ、アー・エル・ドー・ノォ)。STRENGTH!」
 前半の意味は「我はまとう」。天使の言葉とされる呪文だ。
 手にしたブランクカードに、獅子の顎に手を当てている若い女性の絵柄が浮かぶ。
 タロットカード第八番「ストレングス」だ。
 それを額の前に持ってきて、意識を集中する。ヴィジョンが視えた。草原を駆けるライオン。それが炎となり、光りとなって、自身にかぶさる。
 全身に力がみなぎってきた。と同時に、着ている着物が一部、燃え、肌が露わになる。幸い、今回は両腕の袖が燃えるに留まったが、いつだったか、腰から下が燃えてしまって難儀した。あの時もストレングス。蹴り技でとどめを刺そうとしたところ、あのようになってしまった。そもそも、この「物理強化」の対象は、貴織の場合、生体電気らしい。生体電気の強化が静電気の誘発、さらには、周辺の粉塵に引火して、着物が燃えてしまうらしい。
 そういえば、二階建ての空き屋の中で「塔」の力を解放したところ、建物そのものが崩壊した事もあった。ともにアタッキングメンバーだった白倉新(はくら あらた)の話では、粉塵爆発だったらしい。あの爆発の中、「ヨロイ」をまとっていたとはいえ、よく無傷だったと思う。
「Tar(来い)、Claimh−Solais(クラウ・ソラス)!」
 比呂樹の声が聞こえた。「クラウ・ソラス」とは、ケルトの英雄神「Nuadha Airget−Lamh」が持つ光の剣、あるいは不敗の剣とも呼ばれる剣(つるぎ)だ。いつか聞いた事があるが、比呂樹の先祖にアイルランド人がいるそうで、その辺りから、彼のアタッキングツールは、この剣になったらしい。「Nuadha」は「ヌァザ」だが、「Airget−Lamh」の部分は、「アガートラーム」とも「アーケツラーヴ」とも「アグラドラーヴ」とも読むらしい。そもそもアイルランド語あるいはゲール語は、地方差が激しいらしく、昔は「これが標準」という読み方が、存在しなかったらしい。この名前の意味は「銀の腕を持つヌァザ」。名前プラス称号だが、言ってみれば、氏姓(うじかばね)のようなものだ。貴織の「梓川」という苗字も、「梓川」という地名の場所に先祖が住んでいたからだという。
 それは、この際、どうでもいい。
 比呂樹は剣を操作した。柄を引っ張り折り曲げると、鍔(つば)との境から引き金が現れる。同時に、剣身が左右に二つに割れ、銃身が現れた。
 つまりは剣がライフルに変形したわけだ。彼にとって魔法力を行使するのに、「剣」ではなく「銃」の方が都合がいいらしい。
「銃だったら、紫雲英ちゃんでしょうに」
「うるせえよ」
 ニヤリとして、比呂樹が銃を構える。
 サポートは任せろ、という合図だ。ならば、貴織も自分の仕事をしよう。


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