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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第31回   弐「帝都、死に急ぐ者の始末」の一
 顕空では七月九日、日曜日の午後十一時半だったんだ。
 それが、冥空……大正十二年界へ行ってみると、八月八日・木曜日の夕方だった。確か、前、巻き戻ったときは、八月十三日だったけど。
 この辺は、もう気にしない事にした。
 僕がいるのは、大通りからちょっと外れた通り。この辺りは不案内なところだ。どこになるのか、ちょっと見当が付かない。どの辺りだろうと、歩いていると。
「?」
 今、なんか、悲鳴が聞こえたような?
 僕は、声がしたと思しき方へ、、小走りで駆けていった。すると。
 曲がり角から、何人もの人たちが駆けてくる。そのうちの一人、着物姿の女の人が転んだ。
「大丈夫ですか!?」
 慌てて駆け寄り、抱き起こすと、細川沢子さんだった。
「沢子さん!?」
 驚いた僕の声に、ホッとしたような、それでも混乱しているような、何だかわからないような息を何度も漏らして、沢子さんが言った。
「ああ、心さん!! 私、旦那様の言いつけで、三丁目の小西様のお宅に、掛け売りのお代金を頂戴に上がったら、途中の道で……!」
 そして、振り返る。僕は、沢子さんを起こし、角から、そっと通りを見る。
 その通りは、車道ではなく、.歩道。両側は民家が並ぶ、いわゆる住宅街だ。そして、百メートルぐらい先だろうか、黒いバスケットボール大の丸いモノから、二本の太い、黒い腕のようなものが生えた、何かが、宙に浮いていた。ちなみにその腕、肘関節みたいなものは二つあって、要するに、人間の腕じゃない。
「……なんだ、あれ?」
 呟いた僕に答えたのは。
「禍津邪妄(まがつじゃもう)です!」
 振り返ると、天夢(あむ)ちゃんだった。そして、一緒にいるのは、浅黄比呂樹(あさぎ ひろき)さん、梓川貴織(あずさがわ きおり)さん。梓川さんが、沢子さんに何か言うと、頷いて、沢子さんが、頷き、駆けて行った。時折、近くの人に「遠くに逃げるように」なんてことを言ってる。おそらく梓川さんが指示したんだろう。
 浅黄さんが、僕の隣に来た。
「俺は、『今朝』、ここに来たんだ。で、今日、仕事帰りにこの近くのビアホールへ行こうと思っていたら」
 そのあとを、着物姿の梓川さんが言った。
「あたしもね、そこで、比呂さんにバッタリ出会ったから、ご相伴にあずかろうと思ってたんだけど」
 浅黄さんが「オゴるとは言ってねえ」と、ボソッと言ったけど、聞いてないように梓川さんは言った。
「いきなり悲鳴とか聞こえて、来てみたの」
「あたしは、気がついたら、ここに」
 と、天夢ちゃん。どうやら、天夢ちゃんは、僕と同じ状況だったらしい。
「あれは、『力』で押し通るって、ヤツかな?」
 浅黄さんが言う。


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