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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第285回   後日譚、九月某日Another。・二
 本当は、今日、予定が入っていた。平田古書のお得意さんから、「古書の鑑定依頼」があったのだ。平田古書では、基本的に持ち込みのみを買い取り対象にしている。だが、その人は古くからのお馴染みさんであり「数が多くて重いし、貴重なものだから、出張査定をお願いしたい」という依頼があったのだ。しかし、葵からの手紙に返信をしたとき、葵から、その同じ日に「白倉本家に顔を出せ」と連絡があった。なので、とりあえず、古書の写真とデータの記録だけを心に頼み、自分はここへ来たのだ。
 呪術を伝える家が日を指定する、ということは、理由あってのこと。何らかの意味……おそらく霊的なもの……があると考えなければならない。
「そういえば、魔災について、新の考察を聴いたわ」
 と、葵は言った。その考察は、大雑把に言えば、「共振現象のように、空間に直接、干渉するもの」ということ。そのような災害が起きることは、自然界では有り得ない。新の考察はいささか突飛な気がする。もっとも、それは猿太閤の存在を前提にしたモノだったそうだが、だとしても、ちょっと考えられない。
「確かに、あの子は鋭いが、そういう災害は考えづらい。やっぱり地震が起きたところへ、台風なり竜巻なりが重なって、っていうのが普通だと思う。だから、それに対する防災体制をしっかりさせれば、もし魔災が起きても、最悪の事態は防げるんじゃないかって思うんだ。……まあ、竜巻だとしたら、どう防げばいいのか、わからんが」
 現実世界で起きることは、必ず現実世界で……人の知恵で防ぎ、乗り越えられるはず。これが児朗の持論だ。
「そうね。でも私は、ちょっと違う考えを持っているの」
「違う考え?」
「ええ」と、葵は頷く。
「風の震災。それって、風……空間を伝わる、心の災いじゃないかっていう気がするの」
「空間、心の災い。……風の心災か」
「ええ。今の時代、あらゆる情報が飛び交っている。それを受け入れるにせよ、否定するにせよ、人は多くの情報に接している。でも取捨選択するのは、その人の主観。今は電脳技術の発達で誰もが発信者になれる。……『王様』になれるの。『王様』は『自分こそが正しい』という主観で発信し、敵を潰す。その『王様』を、また別の『王様』が叩く。その根底にあるのは、『自分こそが全知全能である』という心、『神気取り(かみきどり)』。そして心災は、風のように国境さえも越え、あらゆるところに忍び入る。例えば、誤った発信のせいで、多くの人命が危機にさらされることも考えられる」
 葵の言うことは、極端な気もしないことはないが、頷けるところもあった。確かに「風の震災」ということの意味を考えたら、そのように「あらゆるところに広まる」という怖れも考えられる。
「大正十二年界も、テイボウにいる救世さんの見解通り、おそらくあれ自体が欲念体と考えるのが自然。となると、人々の欲望は膨れるだけ膨れていき、それに合わせて心も歪んでいく。心の歪みが心災……魔災を呼ぶ。それがどのような形で結実するのか、わからないけど、それは、そう遠くない気がするの。だから、再生された大正十二年界、あれを『浄化の場』のように出来れば。そう思っているの」
 ここまで聞いて、ふと、繋がっていくものがあった。
 まさか、その話を詰めるために「今日という日」を選んだのではないだろうか? 児朗を呼びつけるだけなら、いつでもいいはず。おそらく選日の占断をした結果、「今日」という日が、話をスタートさせるのに、最適の日だったのだろう。
「そうか、だから今日……」
 そう言いかけたとき。
「お待たせしました!」
 という威勢のいい声と同時に、道場の引き戸が開けられた。
 そこにいたのは。
「お久しぶりです、若旦那!」
 そんなことを言ったのは、古くからいる弟子だ。髪に、かなり白い物が混じっているが、面影は残っている。
「及川さん」
 児朗の兄弟子だ。この人物は、児朗と葵が結婚したときから、児朗のことを「若旦那」と呼んでいる。彼にならって、でもあるまいが、児朗のことを「若旦那」と呼ぶ者も多かった。白倉流では師母またはその娘の夫は「兄事師(けいじし)」または単に「兄師(けいし)」と呼ぶならわしがあるが、児朗はむしろ「若旦那」という堅苦しくない呼び方を好んだ。時折「バカ旦那」に聞こえていたのはご愛敬だが、今になってみれば「バカ旦那」で正解だったように思う。
 だが、懐かしがるより早く、次々と人がやってきた。知っている顔よりも、知らない顔の方が多い。改めて、十三年の歳月を感じる。
 そして。
「おまっとさん!」
 と、人垣を分けて、何人も入ってきた。みな、料理の載った大皿を持っている。
「……何事だ?」
 葵を見て、児朗は言った。
 葵は笑顔で応える。
「あなたの『お帰りなさいパーティー』。お料理とか、儀式の中日(なかび)とか、色んな手配のことを考えたら、今日が最短候補日だったの。だから、『今日、帰ってこい』って連絡したのよ」
「……え? いや、今日、呼んだのって、今後の対策を練るのに、最良だから、じゃねえの?」
「………………え? なあに、それ?」
 心底、不思議そうな顔で、葵は首を傾げる。
「……マジか?」
 よもや、宴会のセッティング、その都合のために「今日」という日を選んだとは……。

 その後、長女の琉那も加わった。大学卒業後、琉那は、各地の「妖物祓い」という、修行を兼ねた仕事をしているという。いずれ、新や三女の日鶴(ひづる)にも児朗が父親であることを告げねばならない。ここを去ったとき、新は四歳、日鶴は二歳だった。葵が児朗のことを、どのように二人に伝えているか、一応、手紙で読んだ。「霊的事情で名前などを教えられない。長い修行の旅に出ている」、そういうことになっているそうだ。
 新は、かなり勘のいい娘だから、頻繁に会うと、こちらのことを直感的にでも悟る可能性があった。なるべく顔を合わせないようにしていたが、それでも葵の言動等から、自分の身近に児朗の影があると、踏んでいるらしかった。
 正直、顔を合わせづらくはあるが、そういうわけにはいかない。
 そんな風に思っていると、児朗が上石津市でバーテンダーをやっている、という話になった。
 葵が、意味深な笑みで言った。
「これは、あなたのところでお酒をごちそうにならないとならないわねえ」
「……お前、ウワバミじゃねえか。俺は雇われの身なんだよ、そんなことしてたら、オーナーから解雇(クビ)、言い渡されちまう」
「あら? そのぐらいしてもらわないと。この十三年、手紙の一つも寄越さなかったんだもの」
 ほかの者たちも、それに便乗し始めた。
 大騒ぎの内に、この夜は更けていった。


(後日譚、九月某日Another。・了)



後日譚、九月某日Another−Parallel


 その夜。
 小高い丘の上から街の灯を見下ろす、若者が三人。一人は男、二人は女。三人は、高校生のように見えた。
 青年(イケメンだ)が言う。
「テイボウの面々は、二〇二三年が魔災の歳だと思っているようだけど」
 そのあとを、前髪で左目を隠すようにして眼鏡をかけた、ショートヘアのボーイッシュな美少女が続けた。
「本当は二〇二七年なんだよね?」
 そう言って眼鏡の美少女が、青年を挟んで反対側にいる美女に視線を送る。彼女はプリンセスカットにした髪を腰まで伸ばした、どこか東洋的な美を合わせ持った美女であった。
 美女は手にした扇子を少しだけ開いて口元に当てて言った。京都弁のようだ。
「八の倍数。つまり、一〇四を足さな、あかんかったんえ? せやから、ほんまは一九二三足す一〇四で、二〇二七年です。それに、日月(ひつく)の神さんの預言によると」
 そして、青年と美少女を見る。
「第八巻『磐戸の巻』第十六帖に『子の年真中にして前後十年が正念場ぞ』いう一節があります。それに、同じく『磐戸の巻』第十六帖、さっきの一節のちょっと先に『未の三月三日、五月五日は結構な日ぞ』いうのもあります。二〇二七年は未(ひつじ)年や。これを偶然とするか、必然と見るか……」
 青年も言う。
「今の『子の年真中にして前後十年が正念場ぞ』だけど。子年である二〇二〇年を中心にして前十年・後十年とすると、二〇二〇年の十年後……この場合、二〇二〇年を前後の十年と重なっていると考えると、二〇二九年が十年後。第七巻『日の出の巻』第二十帖『十年先は五六七(みろく)の世ざぞ』と合わせて考えると」
 眼鏡の美少女がニヤリとして(もっとも本人は「ニヤリ」という自覚はないだろうが)続けた。
「二〇二九年辺りが、五六七の世の始まり、てことだね?」
 青年がちょっと唸って言った。
「うーん、そういうことになるのかなあ?」
「それにな?」と、美女が何かを企んでいそうな笑みを浮かべる。
「第二十四巻『黄金の巻』第十五帖に『天明五十六才七ヶ月、ひらく』、同じく『黄金の巻』の第五十四帖に『五十六才七ヶ月みろくの世』いうのが、あんねん。『日月神示』を降ろさはった岡本天明はんがお亡くなりにならはったんが、一九六三年の四月七日や。一九六三年に五十六年を足すと、二〇一九年、ついでに四月に七ヶ月足すと、十一月。ちょいずれるけど、この頃に世界的な感染症が発生して、騒ぎになりましたやろ? つまり、この時に『大峠』の扉が開いたんや」
 ふう、と青年は息を吐いて、言った。
「いずれにせよ、まだまだ気は抜けねえ、ってことだな」
 眼鏡の美少女が、やはりニヤリと、どこか余裕を浮かべた笑みを浮かべ、青年を見て言う。
「ボクたちも、頑張らないと、ってことだね?」
「ああ」
 青年が頷くと、美女が笑顔で言った。
「さあ、そろそろ、ウチらの時空に還りまひょ?」
 頷き、青年が夜空を見上げる。
「しっかし、まさか影響を与え合う平行世界(パラレルワールド)なんて、トンチキなものがあるとはなあ」
「世界は、まだまだ、広うおすえ?」
 美女がまた微笑んだ。
「よし! じゃ、還るか!」
 青年が咒(しゅ)を唱え始めると、三人を虹色の淡い光が包んでいった。


(後日譚、九月某日Another−Parallel・了)


※すみません、「神氣學園SAGA」の面々を出してしまいました。本来なら、「神氣學園SAGA」を先にご紹介するべきですが、それはまだまだ先になりますので。
「小説&まんが投稿屋」様のユーザー様だった方は、この三人については、ご存じだったかも知れませんが、そうでない方の方が多いですよね。
 重ね重ね、申し訳ない。

 それから「日月の神さん」云々のところは「日月神示」のことです。これについては、今はもうかなりメジャーになってますので、ネットで調べてみてください。私が初めてこの神示を知ってから三十年以上経ちます。当時は、社会的認知度はそんなに高くなかった(というよりネット環境がなかったので、情報拡散力が限られていた)と思いますが、まさか、ここまで有名になるとは思っていませんでした。

 それはさておき。
 本文では「二〇二九年辺りがみろくの世のスタート」としましたが、実は別の情報スジから「二〇三一年が世界の破滅、または転換点」っていう情報を仕入れてるんです(この情報自体は一部で知られていますが、何年かまでは情報源が口を閉ざしているため、未だに公表されていません。この『情報スジ』は、偶然から聞き出せたそうです)。
 これが本当なら、あと、六〜八年。昔なら「HAHAHA、そんなわけないだろう、シンディー? それよりこれから、ディスコへ行ってオールナイトでフィーバーしないか〜い?」って言ってるところですが、今はこの異常気象やら国際情勢やら見てると、「やっべーよ、マジだよマジだよ『本気』と書いてマジだよ! さっき殺しちゃった人の死体、どこに隠そうか考えてる場合じゃねーよ!」って感じです。
 本当のところは、神のみぞ知る、ですね。

PS.死体は、ダムの底に沈む予定になっている村の、ある民家に隠すことにしました。捜さないでね?(^▽^)


 今、硫黄島沖で新島が生まれ、現在も成長しています。
 そして日月神示第一巻「上つ巻」第一帖に、こんな一節があります。
「日本はお土が上がる、外国はお土が下がる」
 外国はともかく。

 これね〜、絶対、誰かがネットに書いてると思ったのよ〜。ほら、スピリチュアルの信奉者の中にはこういうことを「我先に」書いて、自分の優越性とかいろいろと主張する人がいるじゃないですか(あれ? ひょっとして、私もか?)。

 でも、ヒットせず。
 う〜ん、新島ぐらいじゃ、「お土が上がる」ことには、ならんのだなあ(苦笑)。




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