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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第282回   後日譚、九月某日。・一
 九月。
 二学期が始まり、日常の中で新はふと思うことがある。
 確かに大正十二年界は復活した。そこに存在する人間や、町の様子など前とは若干、異なったところもあるが、禍津邪妄や欲念体(ディザイア)が出現する辺り、基本的には以前と対応は変わらない。勾玉の「システム」も健在だが、今のところ「太極図」をコンスタントに使えるのは心と天夢、千紗、及び新だけで、他のメンバーは、必ずしも太極図が使えるわけではないらしい。
 これについては「以前、太極図を使いこなしたことで、ある種の『適性』に目覚めた者が使えるのだろう」ということになっている。
 今のところ「猿太閤」に相当する存在は確認できない。また、背後に何ものかがいるのではないかということで、日々、霊査を行っているが、今のところ、そのような存在……有り体に言って金毛九尾が暗躍していそうな気配もない。
 純粋に人々の「欲念」のみが具現化し、稼働している世界のようだ。
 となると、実は。
 何も掴めない、ということでもある。以前は「大正十二年界で、何らかの異変があれば『魔災』の種である可能性が高い」というところから、邪念潰しという、ある種の対症療法を行ってきた。その中で「魔災の種」をあぶり出す、という活動だったのだが。
 それは、事実上、不可能であることが、心の指摘で判明してしまっているのだ。
「大正十二年界そのものが、巨大なディザイアだった」
 つまるところ、テイボウの活動そのものも、歪みを生むことになりかねないのだ。
 結果、今できることは、こまめに欲念を潰していって、歪みを増大させないことになってしまっている。
「大正十二年界が再生した以上、そこに生まれた『縁(えにし)』が魔災を引き起こすのは、確実だからねえ」
 学校からの帰り、バスの中で、窓外の景色を眺めながら、新は独り言つ。「大正十二年界」はそもそも「魔災の種を潰すため」に作られた世界なのだ。その「縁」が生き続ける以上、魔災が引き起こされるおそれも残る。
 一時は「別の方法」で魔災を防ぐということにもなっていたのだが。
「大正十二年界の方に、引き寄せられるのは確実だね……」
 頭の痛いところだった。
 ふと、新はスマホのカレンダーを呼び出す。
「ボクの推測が正しいとすると」
 いくつかの数字を頭の中で、つき合わせる。

 関東大震災は、九月一日。
 阪神淡路大震災は、一月十七日。
 東日本大震災は、三月十一日。

「直接の関係はないけど、一九六九年七月に、人類初の月面着陸をやったのは、アポロ十一号だったね。あれもある意味で、人類史に残る、革新的……いや、激震だったと言ってもいい。してみると、『十一』は、革命あるいは激震の数霊……」
 共通点があった。
 関東大震災は、九と一。
 アポロ月面着陸は、七と十一。
 阪神淡路大震災は、一と十七。
 東日本大震災は、三と十一。

 もっと単純化しよう。

 九、一。七、十一。一、十七。三、十一。九一、七、一一、一十七、三一一。
 つまり、「一、三、七、九、十一」という数霊(かずたま)で構成されている。
 あるいは「奇数=陽数による組み合わせ」ともいえる。
「奇数のうち、この中にないのは、五だね。あるいは」
 ひょっとすると、九から下がって、また上がっているとしたら?
 九月、七月、一月、三月。
 すると、次は五月十一日、あるいは十一月十一日。
「直近となると、二〇二三年十一月一日か、十一月十一日。この日に魔災の種、あるいは、魔災そのものが起きるのか……」
 すると、バスが停留所に着いた。タラップを降りると、その近くで、一人の制服姿の女の子に出会った。
「あれ? amoureux? どうしたんだい、こんなところで?」
「え? 白倉さん? ……ああ、そういえば、この辺りって、白倉さんのお住まいがある辺りでしたね?」
 心の底から歓喜が湧いてくるのを押さえもせず、新は天夢に歩み寄った。
「嬉しいなあ。amoureuxの方から、ボクに会いに来てくれるなんて」
 天夢の表情が困惑したものになる。
「い、いえ。そうじゃなくて。救世さんのバイトの関係で、古書の買い取りがあって、この近くのお宅で、救世さん、不案内だってことで、あたしもそんなに詳しくないけど、それでも少しは知っているので……」
 なにやら色々言っているが、そんなことはどうでもいい。今ここに、天夢がいるということの方が、新にとっては重要なのだ。
 素早く周囲に視線を走らせ、近くに誰もいないことを確認すると、新はカバン等、手荷物を地面に置き、天夢の腰に右手を回した。
「ちょ、ちょっと、白倉さん!?」
 天夢の声がうわずった。
 ここは、ある意味で新のテリトリーといえるし、実際にある種のエネルギーフィールドが形成されている。この場所まで来ると、それは軽度の邪気を弾く程度でしかないが、その力を利用すれば。
 もしかしたら、「キス」以上にいけるかも知れない。
 天夢の耳元に顔を寄せ、その耳元に息を吹きかける。なにやら身を震わせ、天夢は小さく声を漏らした。その声は、新には、甘くかわいいものに聞こえる。囁くように新は言った。
「女の子ってね? とっても柔らかくて、ふわふわしてて、いいニオイがするんだよ? ……ほら」
 新は左手で天夢の右手を取り、新の胸の膨らみに押し当てる。天夢が小さく声を上げたが、それは、不快感とは違うように、新は思った。わずかながら、天夢の指に力が込められ、新の胸の膨らみに圧力がかかる。それを嬉しく思いながら、新は右手を腰から下へと降ろす。スカート越しに、天夢の柔らかい体に触れると、天夢が小さく呻いた。
「ボクの愛しいamoureux……」
 そのまま、顔を近づけた……。


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