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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第280回   結の二
 面河児朗は、部屋を引き払うため、荷物を整理していた。そんな時、訪ねてきた者がいる。
「佐之尾さん……」
 県警捜査一課の刑事であり、テイボウの主頭である、佐之尾だった。
「どうしたんだ、今日は?」
「久しぶりの非番なんでな」
 と、佐之尾は部屋に入る。
「おいおい、あんな大事件の最中に、非番か?」
 皮肉を言ってみる。
「大騒ぎしてんのは、二課だ」
 強引なことを言う。どうせ、非番になるよう、妙な呪術でも使ったのだろう。
「この間は、イヤなフダ、描かせちまって、悪かったな」
 と、佐之尾は言った。
 イヤなフダ。阿山花果の一件だろう。
「気にするな、慣れてる」
 そして、コーヒーメーカーをセットする。
 背後から、佐之尾の声がした。
「まだ、してないんだろ、親子の名乗り」
 その言葉に、一瞬、手が止まるが、動きを再開する。
 佐之尾は続ける。
「子どもには、背中を見せる、大人が必要だ」
「よせよせ、俺の背中なんざ、見せられるようなもんじゃねえよ」
 荷物の整理を始めた部屋の様子を見ながら、溜息とともに、佐之尾は言う。
「名乗りも上げずに、ここを去るつもりか? 事件は片付いた。そう思ってんじゃねえだろうな?」
 思うところはある。テイボウの活動に終わりはない。あと一つ、「風の震災」に象徴される魔災が起きるのは確実だから、その種を潰さねばならない。
 だが、面河は、ある種の「目的」を達成し、ここにいる意味をなくしていた。
「俺がいなくても、誰かがやるさ」
「おいおい、それって、典型的な『先送り人事』だぞ?」
 苦笑いで言うと、佐之尾は一通の封筒を出した。
「お前が、未だに親子の名乗りをあげてない、その娘の母親からだ。いい加減、俺を窓口にするのは、やめてくれ」
 佐之尾が差し出した封筒を手に取る。表にあるのは、「上石津市郷土文化歴史研究センター 所長 佐之尾常国 様」、裏にある差出人の名前は。
「白倉 葵」。
 複雑な思いでそれを見ていると、佐之尾が言った。
「師母様が、直々に『帰って来てくれ』って、言ってんだろ? 破門は、取り消しになった、ってことでいいんじゃないのか?」
「そう簡単に片付けていいことじゃない。俺がやったことは、あそこに混乱をもたらしただけだ。そのせいで、結果的に千宝寺蒼宇の娘に、妙な啓示が降りる、その原因を作ってしまった。もともとは、神との交流を、確かなものにしようと、当時の師母の厳命を破って、儀式を改良したことだった。破門されて、あとになって、それを見つけた千宝寺のご隠居が、孫娘に施したって聞いて……」
「何をやったかは知らんが」
 と、佐之尾が面河の言葉を遮った。
「こうして、毎月、手紙が来てんだ。一度ぐらい顔出して、詫び入れて、仁義を通しちゃあ、どうだ?」
「俺が、表に名前を出さない、いや、出せないのは、あそこに知られないようにするためだった。にもかかわらず、手紙が来続けてんだよなあ」
 と、面河は佐之尾を見る。
「俺じゃないぞ?」
 そう言う佐之尾の表情からして、どうやら、本当に彼の仕業ではないらしい。
「じゃあ」
 と、面河は溜息をつく。
「御苑生さんか」
「御苑生家は、白倉流の門弟なんだろ、確か?」
「ああ」
 面河は改めて、封筒を見る。どうやら、一度、顔を出さないとならないかも知れない。
 そう思っていたら、コーヒーが出来たらしい。佐之尾が、「コーヒー、もらうぞ」と、コーヒーメーカーの方に行った。


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