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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第28回   壱の二十六
 蜘蛛の脚の一本が、僕の頭めがけて、墜ちてきた。それをかわし、僕は膝のバネを利かせて、ヤツの下に潜り込む。継ぎ脚で、位置をずらしながら、脚の一本に、手刀を打ち込んだ。
 ……硬い。
 でも、ダメージには、なったらしい。微妙な感覚だったけど、皮膚の表面にヒビのようなものが入ったように感じたし。
 直後、気合いもろとも、天夢ちゃんが脚の一本に斬りつけた。僕は、蜘蛛の左半身の、一番前の脚を打ったけど、天夢ちゃんは左半身の一番後ろの脚だ。
 金属音にも似た甲高い音がして、蜘蛛の脚が斬り飛ばされる。
 蜘蛛が身震いし、高く跳んだ。僕たちから離れ、そのまま、逃走しようとする。でも、それを逃すわけにはいかない。僕たちは家屋の屋根に跳び上がり、それをジャンプ台のようにして、蜘蛛を追う。蜘蛛は、口から吐いた糸で、器用に体を振り回すようにして、無軌道に跳ぶ。それを追いかける。
 ふと、天夢ちゃんがある家の屋根で立ち止まった。
「どうしたの、天夢ちゃん!?」
 逃げられる、と言いそうになったとき、天夢ちゃんが懐からまた、短冊のような金属板を出した。
 そして、呪文を唱える。
「四(よん)の柄(つか)、風! 謹請、志那津比古(しなつひこ)の神!」
 短冊が水色に輝く。それを柄頭の、もう一つのスリットに差し込んだ。剣身が青く光る。そして、剣を振り回した。
 突如、突風が巻き起こり、その風に乗るようにして、蜘蛛が宙を舞う。そして、僕たちの近くの地面に墜落した。
「この剣、『柄(つか)』に『八』種類の咒符をさすことで、それぞれ違う、特殊な力を発動出来るんです。この剣の本当の『銘』は、『八柄(やつか)の剣(つるぎ)』だそうです」
 そう言うと、天夢ちゃんは剣を逆手に構えた。そして、地面に墜ちて、のたうち回っている蜘蛛めがけて、天高く跳躍し、剣の切っ先を、蜘蛛の腹に突き刺した。
 その時、初めて、蜘蛛が声を発した、.
 地の底から響いてくるような怨嗟(えんさ)の声。
 悲鳴には聞こえない。
「祓い給え、浄め給え!」
 天夢ちゃんが叫ぶ。すると、突き刺した剣を中心にして、風が巻き起こり、その風は青い光となって、渦を巻いて、天へと伸びていった。
 蜘蛛の体が、崩れ、その風に乗って、空へと舞い上がる。一瞬だけど、二人の人間……一人は、脚が不自由な感じに見えた……が、その風に乗っていたように見えた。その人間がこっちを見て、そして、僕たちを睨んだように思えたのは、気のせいだろうか?


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