「ねえ、救世くん。『天地十字の法』は、多分、ボクの技……といっても、ボクも知らない奥義っぽかったけど。じゃあ、あの秘儀は、誰の力だったんだい?」 あれか。今は、だいたい、見当はつくんだけど。 「ゴメン、僕にはわからない」 「そうか」 と、白倉さんは言ったけど、なんか疑わしそうにこっちを見てる。でも、それは置いておくことにしたようだ。スカートのポケットからスマホを出して、操作し始めた。 「七時か。起きてるね」 天夢ちゃんが聞いた。 「起きてる、って、誰がですか?」 「江崎さんだよ?」 僕と天夢ちゃんが首を傾げたんで、白倉さんが答える。 「こんな山のてっぺん、しかも、最寄りのバス停とか市電とか遠いし。それ以前に、持ち合わせ、ないし。だから、迎えを呼ぶのさ」 「いや、迎えって、副頭を運転手にするのは……」 と、僕が言うと、白倉さんがニヤッとした。 「報告とか、あるだろ? 特にキミの場合、随分と大それたことをしちゃったし、副頭に話を通しておいた方が……根回しをしておいた方が、いいんじゃないかな?」 う。確かに。 そう思ったとき、「ヨロイ」が解除された。そして。 天夢ちゃんの悲鳴が響いた。 ……。 そうだった。 僕は湯船に浸かっているときに……。 天夢ちゃんは真っ赤になって両手で顔を覆い、白倉さんは。 スマホを耳に当てて、顔を歪め、震えていた。スマホから「もしもし」っていう声が聞こえたけど、それを無視して投げ棄て、白倉さんは、竹刀袋から大光世を出す。鞘から銀光を放つ太刀を抜いて、白倉さんは静かで、そして怒気を孕んだ声で言った。 「こともあろうに、ボクの大事なamoureuxに、そのような猥雑物(わいざつぶつ)を見せつけるなんて、いい度胸だねえ、救世くん?」 浮かんでる笑顔が怖い。殺気を感じる笑顔って、ないよね? 「キミがぶら下げてる『それ』は、口の先から臭くて汚らしい白い汁を吐き出す、この世で最も忌むべき蛇だ。イヴの純潔を汚す蛇、聖書の神にかわって、ボクが断罪するよ!」 そして、僕に向かってくる。 「ちょ、ちょっと待って! これは不可抗力だから! 君の場合、シャレにならないから!」 当然、僕の抗議の声を聞くはずもなく。 逃げ回る僕の耳に、天夢ちゃんの声が届いた。 「もしもし、副頭ですか!? 早く来てください! 早くしないと、救世さん、白倉さんに斬られちゃいます!」 僕の悲鳴が、青空に響き渡った。
(終結の部「帝都、貫く、浄魔の拳」・了)
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