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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第278回   終結の部の四十四
「ねえ、救世くん。『天地十字の法』は、多分、ボクの技……といっても、ボクも知らない奥義っぽかったけど。じゃあ、あの秘儀は、誰の力だったんだい?」
 あれか。今は、だいたい、見当はつくんだけど。
「ゴメン、僕にはわからない」
「そうか」
 と、白倉さんは言ったけど、なんか疑わしそうにこっちを見てる。でも、それは置いておくことにしたようだ。スカートのポケットからスマホを出して、操作し始めた。
「七時か。起きてるね」
 天夢ちゃんが聞いた。
「起きてる、って、誰がですか?」
「江崎さんだよ?」
 僕と天夢ちゃんが首を傾げたんで、白倉さんが答える。
「こんな山のてっぺん、しかも、最寄りのバス停とか市電とか遠いし。それ以前に、持ち合わせ、ないし。だから、迎えを呼ぶのさ」
「いや、迎えって、副頭を運転手にするのは……」
 と、僕が言うと、白倉さんがニヤッとした。
「報告とか、あるだろ? 特にキミの場合、随分と大それたことをしちゃったし、副頭に話を通しておいた方が……根回しをしておいた方が、いいんじゃないかな?」
 う。確かに。
 そう思ったとき、「ヨロイ」が解除された。そして。
 天夢ちゃんの悲鳴が響いた。
 ……。
 そうだった。
 僕は湯船に浸かっているときに……。
 天夢ちゃんは真っ赤になって両手で顔を覆い、白倉さんは。
 スマホを耳に当てて、顔を歪め、震えていた。スマホから「もしもし」っていう声が聞こえたけど、それを無視して投げ棄て、白倉さんは、竹刀袋から大光世を出す。鞘から銀光を放つ太刀を抜いて、白倉さんは静かで、そして怒気を孕んだ声で言った。
「こともあろうに、ボクの大事なamoureuxに、そのような猥雑物(わいざつぶつ)を見せつけるなんて、いい度胸だねえ、救世くん?」
 浮かんでる笑顔が怖い。殺気を感じる笑顔って、ないよね?
「キミがぶら下げてる『それ』は、口の先から臭くて汚らしい白い汁を吐き出す、この世で最も忌むべき蛇だ。イヴの純潔を汚す蛇、聖書の神にかわって、ボクが断罪するよ!」
 そして、僕に向かってくる。
「ちょ、ちょっと待って! これは不可抗力だから! 君の場合、シャレにならないから!」
 当然、僕の抗議の声を聞くはずもなく。
 逃げ回る僕の耳に、天夢ちゃんの声が届いた。
「もしもし、副頭ですか!? 早く来てください! 早くしないと、救世さん、白倉さんに斬られちゃいます!」
 僕の悲鳴が、青空に響き渡った。


(終結の部「帝都、貫く、浄魔の拳」・了)


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