20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第276回   終結の部の四十二
 女が、よろけながらも、片膝立ちになる。
「バラけたのは、単純にエネルギーを収束できなかったからかい? ああ、答える必要はないよ、その悔しそうな顔、見たらわかるから。だけど、キミにとって、それは有利に働いた。大正十二年界という、欲念を効率よく集積することに特化した空間が出来上がった。そしてキミは活動を始めた」
 白倉さんによると、おそらく最初の頃は、それほど大きな力は使えなかったはずだ、という。その理由は「関東大震災を起こすのに、蓄えた大きな力を使ったから」だそうだ。そして、大震災を起こそうとしたのは、それによる悲劇で生まれる、人々の膨大な「負」の思いを使い、結界を完全破壊し、さらに自身の「力」に変えようと企んだからだという。
「多分、御神使のキツネだったんだろうね、初めは。もしかしたら、それは平安時代の頃の『モノ』と同じ存在だったのかな? そして、自分を崇めれば願いが叶うという、条件をすり込んだ。人々の欲念が集まった。力を増したキミは、『二』に象徴される存在になった。ひょっとしたら、白黒・陰陽の太極図になったのかも知れない。そこで拝めば、というヤツさ。さらに力が増え、キミは『三』になった。あの武将は三面大黒天に縁があるから、それになりすましたのかな、畏れ多いことに。そして今度は『四』。四天王だろうね。次にキミは『五』になった。五行に象徴される、陰陽師だったのかも知れない。ところがここで、別の動きが生まれた」
 白倉さんが柱の外側に立ち、中の女を見る。女はただ、憎らしげに白倉さんを見るだけだ。
「平和を、穏やかな日々を願う人々の思いも、形になったんだ。無意識に魔災を感じ取った人々の念が、裏陰陽師にでもなったんだろう。でも、人々の欲念は集まり続け、キミは『六』になった。黙示録では不完全な数字、悪魔を象徴する数字が『六』だそうだから、ここでキミは悪魔の本性を現したんだろう。一方、それを食い止める念は『四』になってしまった。白倉神道の『十』の原理に支配されて、『六』を補完する『四』にならざるを得なかった。大正十二年界を作ったのは、そもそも白倉神道の秘奥義だからね」
 そうだったのか。なんとなくそう思ってたけど。すごいんだな、白倉神道って。
「そしてキミは『七』本首の、バビロンの大淫婦になった。対するのは『三』本首のケルベロスだ。思えば、ケルベロスには意味があったんだ」
 天夢ちゃんが首を傾げた。
「意味って?」
「ケルベロスは地獄の番犬。番犬って、外からの侵入者を遮るのが役目だけど、同時に、中のものを不用意に出さない、という働きもある。地獄の中身……魔災を起こさないっていう思いだったんだ。だけど、結局ここでは大淫婦と対になったせいで、『欲念』と同列になってしまった。だから、両方を同時に、完全に倒さなければ、必ず、大空震が起きたんだ」


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 2815