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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第275回   終結の部の四十一
「そこで、改めて『九』と『一』に気づいた。あれは『九月一日』の意味もあるかも知れないけど、何より『九本の尾』と、『一つの頭』だったんだね」
 僕の中でも繋がってきた。
「妲己(だっき)も華陽夫人も、時の権力者を利用した。だから、こいつは太閤妃と太閤后の二つにわかれて、猿太閤を利用したのか」
 富士岡さんが言ってた。こちらで出会ったのは、「滝陽華(たき はるか)」だったけど、しばらくして、太閤妃と太閤后にわかれたって。
 僕がそんなことを言うと、白倉さんが頷いた。
「なるほどね。猿太閤を直接引っ張り出したのは、ごく最近だったって訳か。これまでは、『水面下』で動いてたんだ。でも、そうなると、最大の疑問、なんでこんなことをしたか、だけど。……まあ、金毛九尾白面の悪狐のすることだから、意味がなくても……」
「それなら、見当はつくんだ」
 僕は言った。白倉さんが不思議そうな顔で、僕を見る。女も苦しげにしながらも、こっちを見た。
「天夢ちゃん、そもそも大正十二年界って、なんだっけ?」
「え?」
 と、天夢ちゃんがちょっと考える。そして。
「魔災を起こさないようにするために、冥空裏界から分離して作った世界、ですよね?」
「そう。それって、つまり」
 と、僕は天夢ちゃんと白倉さんを見た。
「『魔災を防ぎたい』っていう欲念で作られたんだ」
 二人が、息を呑む。
「もちろん、それは『いい欲』あるいは『願い』って言うべきだ。でも、『何かをしたい』というエネルギーであることには変わらない」
 白倉さんが眉根にしわを寄せ、悔しげに言った。
「それって、つまり……!」
「そう、大正十二年界そのものが、巨大なディザイアだったんだ!」
 天夢ちゃんが「そんな」と、震える声で言った。
「だから、正体がバレる、じゃないけど、新たに定義されて前の状態を否定された……変化したものは、もう戻らないし、そこに様々な欲念のエネルギーが集まってくる。こいつは、それを利用したんだ。自分を閉じ込めている結界を破壊するための、エネルギーを集めるために!」
 白倉さんが首を傾げる。そうか、彼女も気がついてなかったか。
「理由も経緯もわからないけど。大正十二年界で見る『満月』の中に、こいつの『本体』があるのがわかったんだ。そして、今にも出ようとしているのもわかった。だから、僕は結界ごと、やつを倒そうと思ったんだ」
 その言葉に、白倉さんが、辺りを見回し、ちょっと考え、そして、頷いて言った。
「白倉神道の口伝……いわゆる、書き物じゃなくて、言葉だけで伝えられるものがあるんだけど。その中に、この辺りで、ある『儀式』を行ったというものがあるんだ。お母様……師母様には申し訳ないけど、ボクは、信じてなかったんだよね、そんなもの」
 天夢ちゃんが気がついたように言った。
「この暦山の遺跡って、もしかして……!」
「ここは、そんなに古いものじゃない。口伝が正しいとすると、せいぜい千年程度かな? そうか、その儀式って、金毛九尾の封印だったのか」
 そして何かを考えて、どうやら「答え」がわかったらしい。
「いろいろ繋がったよ。キミ、冥空裏界の一部に『人々の欲望を叶える領域』があることに気がついたんだね? そして、猿太閤の怨念にも気がついた。そこで、キミはそれを利用し、結界破壊のエネルギーを集めようとした。魔災の周期が『八』や『十』の倍数になったのは、白倉流結界の影響下にあるから、その法則の支配を受けざるを得なかったからだ。本来なら関東大震災の時に四大の魔災が起き、そのエネルギーもあわせて、結界は消滅するはずだった。でも、それがバラけた」


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