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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第274回   終結の部の四十
 転がる勢いで後転し、左腕一本でバク転すると、僕は呼吸と姿勢を整えて「呪(しゅ)」を唱えた。
「天竺の あおぎが原の 水の木を 折りてくゆれば 水となるらん」
 涼やかな氣が、僕の左手にチャージされる。そして次なる呪を唱える。
「天竺の 雪を地軸に 落としては 早や消えやらむ 土なりの火よ」
 氷にも似た冷たい氣が全身をくるんだ。この神歌は僕の知識にはない。ひとりでに口をついて出たんだ。だけど、その不思議に驚いているヒマなんかない!
 僕は跳躍し、金毛九尾に斬りかかる。金毛九尾が火を吐く。僕は左腕を前に出した。炎が直撃したけど。
「よし、熱くない!」
 炎の熱さもダメージもない。僕はそのまま躍りかかった。でも、結界に阻まれる。
 宙で姿勢を整えて着地し、僕は左手に勾玉を出現させた。
「殺狐狸符(さつこりふ)!」
 勾玉の中に、ゆらりと符が浮かぶ。それを右手甲の鋳型にセットすると、剣身に光で符字が浮かんだ。
 上半身と地面が平行になるぐらいに背を低くし、軽く息を吹いてダッシュし、ヤツの脚めがけて斬り付ける。
『……グウッ?』
 やっぱり弾かれたけど、ヤツの脚がわずかに動いた。結界越しにダメージが徹った!
 僕は回り込んでジャンプし、ヤツの背に斬りつける。弾かれて着地し、そのまま滑るようにあとずさって止まると、その制動の勢いで、僕はジャンプし、また背中に……。
と思ったら、ヤツの尻尾の一つが僕に躍りかかってきた! それに殴られて、僕は地に叩きつけられた! 全身に痛みが走り、呼吸が乱れる。でも、僕は体にムチ打って立ち上がる。横目に見ると、屋根の上にいる白倉さんはまだチャージがすんでないのがわかった。僕が倒れたんで、金毛九尾が白倉さんを見る。
 くそっ、僕が時間を稼がないと! 僕は左手に念と氣を集中し、拳銃(リボルバー)のシリンダーを出現させる。無色透明だ。
「清神符(せいしんふ)!」
 精神を清め、強くする呪符だ。呪符の名を唱えると、シリンダーが紅く光る。それを剣身と鍔を繋ぐ部分……リカッソにはめ込む。まるで最初からそこにセットする空間でもあったかのように、シリンダーは埋め込まれた。僕はそのシリンダーを、ロシアンルーレットをするかのように、掌で弾いて回転させる。僕の中に、強大な精神力があふれてきた。
 雄叫びを上げ、跳躍した僕は、白倉さんに攻撃をしかけていた金毛九尾の後頭部を狙う。しかし、金毛九尾が九本の尻尾で僕を攻撃してきた!
「二度もその手は!」
 気合いとともに、迫ってきた尻尾を蹴り、白倉さんの前に着地し、左腕を盾にして炎から、エネルギーチャージ中の白倉さんをガードする。そしてそのままジャンプして、金毛九尾の喉元を狙った。向かってきた僕を、九尾は前脚で弾いたけど、僕は宙で身をひるがえし、建物の屋根に着地してそのまま九尾に向かう。
 相手は僕がすぐに向かってくるとは思わなかったようだ。顔の横を打たれて苦鳴を上げた。怒りを目に浮かべ、着地した僕に炎を吹いてきたけど、僕は横っ飛びに飛んでそれを避け、そのまま回り込んで、九尾の左の後ろ足を打った。
 金毛九尾が完全にこちらを向き、炎を吐く。それをかわし、建物の壁をジャンプ台にして、九尾の腹の下をくぐる。そして、急制動をかけてジャンプし、落下して九尾の後頭部を打った。
 また痛そうな声を上げて、グルリと頭を巡らせ、金毛九尾は尻尾と前脚で着地した僕を打とうとする。でも、僕は走り、時に建物の影に隠れて攻撃を避けた。
『オノレ、チョコマカ、ト!』
 金毛九尾がそんな言葉を吠え、建物を踏み潰し、破壊しながら、僕に向かってきた。炎を吐き出し、前脚で攻撃し、背後に回った僕を尻尾で狙う。そのことごとくを、僕はかわした。
 ある建物をジャンプ台にしようとした時、その建物が尻尾で破壊された。ジャンプしていた僕は、その衝撃が起こした突風に体勢を狂わせ、ガレキに墜落した。そのまま、体がガレキの中に埋まる。
 金毛九尾がこちらに向いて、口を大きく開き炎を吐き出す。それを左腕でふせいでいるけど、相手もかなり本気を出しているようだし、こちらもクリスタル盤にヒビが入ってきているのが感じられた。確実に、防御力が弱ってきている。
「クッ、新しい呪符を……!」
 熱と痛さに耐えながら、もう一度、攘火災符を生成しようとしたけど。
 集中が乱される。
 それでもなんとか集中を……。
 そう思っていた時。
 清らかで強烈な「氣」が発生した。思わずそちらを見ると、金毛九尾も気がついたようで、炎を吐くのをやめて氣の発生源を見ようと、頭を巡らせた。
 僕の二十メートルぐらい先の建物の屋根の上に立ち、大光世を弓にした白倉さんが、全身からまばゆい光を発して金毛九尾に弓を引いている。そして、白倉さんが強い意志のこもった声で言った。
「金毛九尾白面(きんもう きゅうび はくめん)の悪狐、白倉家が娘、新が今、お前を覆滅(ふくめつ)するッ! 天地に十字ありッ!」
 その言葉が終わると同時に白倉さんの足下に、光り輝く九つの記号のようなモノ、そして頭上にひときわ大きい「神代文字」……これは知ってる、「神」っていう字だ……が現れ、稲妻のようなスパークを放つ矢が出現する。
「滅界(メッカイ)ッ!」
 そう吠えると同時に、白倉さんがその矢を放つと、まるでビデオ映像の早回しのように一瞬で金毛九尾に届いた。そして、爆発にも似た音がして、金毛九尾の周囲の空間にヒビが入り、九尾を包む空間が本当に爆発した。九尾の絶叫が轟き、爆発がやんだ時。
 九尾の周囲の結界が消滅しているのがわかった。息も絶え絶え、といった感じだけど、金毛九尾は、まだそこにいる。僕は、なんとか片膝立ちになった。そして、クラウ・ソラスを右の拳に「収納」し、そこに八束の剣を輝かせ、八卦陣の「坤(地の力)」、呪符の「呼風符(風の符)」、タロットカードの「星(水が描かれてる)」を乗せ、僕は自身の氣を炎に変えて、氣を発出し、逆バンジーのように一気に上昇した。そして宙で反転し、右の拳を構えた。
「くらえ、徹甲拳! デヤァアアアアアアッ!!」
 光に包まれた僕は投下された爆弾のように、金毛九尾の頭部に命中する刹那、右拳を突き出す。
『グオオオァアアアアアアアアアア!!』
 みんなの力と思いを乗せた徹甲拳を受け、絶叫とともに金毛九尾が光に包まれ、同時に僕たちの周囲も光に包まれた。



 気がつくと、朝の光が照る、山の上。僕は「ヨロイ」姿のまま、片膝をついていた。そこは。
「なるほど、ここに出たのか」
 その声に振り返ると、八本の石柱、それに囲まれる円盤状の石。
 円盤石には、一人の女が、四つん這いになって、肩で息をしていた。その女は一糸まとわぬ姿。黒い髪は背中の中程まで。美しいといってもいいけど、それにはどこか昏さがあった。
 何より、頭に獣の耳のような、三角形が二つ、お尻からは、金色の、ふさふさの尻尾が九本。
 僕の傍に制服姿の白倉さんと、サマーニットにジーンズ姿の天夢ちゃんが来た。
 女を見ながら、白倉さんが言った。
「なんとなく思ってたんだ。猿太閤の背後に、まだ何かいるんじゃないかって」
「え? そうなんですか?」
 と、天夢ちゃんが聞いた。
「確信は、なかったけれど。『九』と『一』が出た辺りで、何か引っかかるものはあったんだ。大淫婦とケルベロスと、猿太閤。まったく繋がりがない。ひょっとしたら、繋げる『何か』があるんじゃないかって。そうしたら『九』と『一』だ。キミがさっきの天孤……俗に言う『金毛九尾の狐』だね?」
「え? ちょっと待って? アイツがさっきの?」
 と、今度は僕が聞いた。天夢ちゃんが、肩を貸してくれて、立ち上がる。
「それに、天孤、って、あれだよね、天界にいて、人界にはほとんど、関わらないっていう」
「救世くん、どこにも、落ちこぼれや、はぐれモノは、いるんだよ? 当然、天界にもいる。そんなヤツが、人界に来たって話は、昔からよく聞く」
 腑に落ちるものがあった。
「九尾の狐って、妲己(だっき)って名乗ったり、華陽(かよう)夫人って名乗って、悪さを働いたっていう」
「そう。猿太閤の正体に気づいたとき、ひょっとしたら、その怨念を利用する何者かがいるんじゃないかって思ったんだ。彼が大淫婦やケルベロスを使う必然性が見いだせなかったからね。もちろん、幽界のことだから、どういう繋がりをしているかわからない。でも、もしあの武将なら、家康以外の大老とか、もっと直接的に助力してくれる存在が、いたはずなんだ。ということは、おそらく猿太閤個人が動いたということ。そう思ったら、大淫婦やケルベロスの存在が見えてきた。あれは、この日本に限られる存在じゃないから、もっと、高所から『見ている』存在が関わっているんじゃないかってね」
 円盤石の女は、ただ、苦しそうに息を吐くだけ。僕が強烈な一撃を食らわせたからね。


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