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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第273回   終結の部の三十九
「Claimh−Solais(クラウ・ソラス)!」
 右腕に浅黄さんのアタッキングツール、クラウ・ソラスを乗せ、僕は月に向かう。そして、月の真下に来た。これは、宇宙空間にある月じゃなく、「空の果て」にある、直径二メーター半ぐらいのモノだ。僕は月めがけて、剣を振るう。だけど、鈍い響きのあと、磁石の斥力のような強烈な力で跳ね飛ばされた。
 真っ逆さまに墜落し、地上に激突する。
「救世さん!!」
 天夢ちゃんの悲鳴がした。
 痛む体にムチを打って、僕は起き上がる。
 そして、もう一度、上昇する。
「EMPEROR! STRENGTH! CHARIOT!」
 破壊力を足に乗せ、空中できりもみ回転をし、遠心力を乗せ、月を蹴る。ダメージを与えた印象はあったけど、また、斥力で、たたき落とされた。
 息が止まった。全身を痛みが蝕む。天夢ちゃんの声が遠くで聞こえたけど、それを無視して、僕は起き上がる。咳をしたとき、血が出たけど、気にしている余裕はない。早く、あの月を、いや、月の中にいるモノを……!
 僕は氣を発した。
「八卦陣!」
 足もとに、七色の光線で八卦陣が描かれる。そして、中央から氣が噴き出し、僕を空へ、撃ち出した。翼が氣を受け、高速で僕は月へ向かう。
「召神符!」
 僕の目の前に虹色の光線で描かれた咒符が現れ、そこをくぐると、僕の中に新たな「力」が生まれる。
 そして、徹甲拳に「力」と、「氣」と、「光」を乗せた。
「謹請、八柄の剣!!」
 その一撃で、満月が爆発し、夜空に澄んだ虹色の光で亀裂が走った。
 空間が響き、震えていく。
 そして。
 世界が崩壊した。


 崩壊したあとに現れたのは、まるでポリゴンで作られたような町並み。その色合いは淡色で薄く、そして……。
「これって、いつの時代の町?」
 すごく古めかしくて、時代劇に出てくるような町だった。あちこちを見回していると、返事が。
「平安時代の平安京だね、ここは」
 振り返ると、そこにいたのは真鎧纏装をした白倉さん。
「平安京?」
「多分ね。もしかしたら……」
「もしかしたら? なに?」
 僕が続きを促そうとしたら、白倉さんが厳しい眉根で空を見上げて大光世を構えた。なんだろうとそっちを見ると。
「……なんだ、あれ? ……巨大な金毛九尾の狐……?」
 ちょっと待って待って!? なんでここで九尾の狐が出てくるんだ!?
「救世くん、amoureuxの白い肌を想像してバカづらを提げているヒマはないよ!」
「いや、そんなこと思ってないけど……」
 そう言って白倉さんを見ると、彼女、僕をジトッと睨んでた。
 うわあ、この人の天夢ちゃんへの気持ちはガチのマジものだなあ……。
 でも、白倉さんが敵だと認知しているようだし、僕もあの巨大な狐は。
「邪悪の権化……」
 そう感じた。僕も闘わなければ! そう思って、僕は「武器」を喚んだ。
「Tar(来い)、Claimh−Solais(クラウ・ソラス)!」
 さっきはエネルギー体だったけど、今度は実体を喚んだ! そして、剣が僕の右手に現れ……。
「なんだ、これ!?」
 僕の身長の倍ぐらいある長大な剣が現れた! これは持ち上げるのも無理かなあ、と思ったら、そうでもない。ていうか、まるで僕の腕の延長のような感じさえある。
「Nuadha Airget−Lamh……銀の腕を持つヌァザ。そうか、ヌァザの『銀の腕』って、銀の義手じゃなくて、剣そのもののこと、まるで自分の腕のように剣を振るう、剣の神に対する賛辞のことだったんだ」
 僕は剣を構え、金毛九尾を見る。
 気合いとともに白倉さんが跳躍し、狐に斬りつけたけど、電子的な残響音とともに白倉さんは弾き飛ばされてた。宙でキレイにバックで回転すると、彼女は急勾配の屋根を持った一階建ての建物(っていうか、ここにあるのは全部、平屋)のてっぺん……垂木の辺りに着地する。僕も氣を発して斬り付ける……というより、剣を叩きつけた! 電子的な残響音、そして軽い痺れがあって、僕も弾き飛ばされた。
 白倉さんほどキレイにバク宙できなかったけど、それでも姿勢を制御して、着地すると、僕は剣の柄をひねって銃のグリップにする。すると、剣身が縦に二分割されて銃身が現れる。この一連の動作は、剣の方から僕に流れ込んできたものだ。
 僕は左手に意識を集中してキーワードを発した。
「塔(タワー)!」
 左手に、タロットカードの「塔」が描かれたカートリッジが現れる。それをグリップに挿し込み、九尾を狙う。そして。
「八卦回旋、震(しん)!」
 銃口の前に出現した八卦陣が回転し、中央に「震」の文字を浮かべて止まる。念を込め、僕は引き金を引いた。「塔」に描かれたのは天罰としての雷(いかずち)、「震」も雷だ。銃に落雷があったのではないかと思うほどの光と衝撃が起き、僕は後方へ飛ばされそうになった。両足に力を込めて踏ん張ったけど、それでも建物を二つほど突き抜けて止まる。一方、銃口から発射された幾筋もの雷撃は、幾重にもより合わさりながら九尾に向かった!
 直撃! ……したけれど。
「くっ、ダメか……」
 ヤツに命中しているはずなのに、平然としている。
 次のカートリッジを、と思った時。
「救世くん、ヤツは強力な結界に護られてる! ボクはあの結界を破壊するエネルギーをチャージする! ヤツの注意を引いてくれ!」
 ある建物の屋根にいた白倉さんがそう言ったんで、僕は銃を剣に戻し、反射的にヤツに向かって行った。さっきの声で白倉さんに向いたヤツだけど、おそらく僕が発した氣に気づき、こっちを見た。
 気合いもろともに、ヤツを叩く。例によって弾かれたけど、ヤツにとっては目障りなんだろう、こっちに向いて口を開き、青黒い炎のような氣を吐き出してきた。それを避け、僕は呪符の名を呼びながら、左手にクリスタルの円盤を出現させた。
「攘火災符(じょうかさいふ)!」
 クリスタルの中に符が浮かぶ。それを宙に投げ、前方に拳を撃つ要領で左手を撃ち出して手の甲側にあるサークルにセットさせた。
 金毛九尾が炎を吐く。僕は盾のようにして左腕を出す。攘火災符の符字が光って炎を受けたけど。
「カハッ!」
 完全にはダメージを殺せず、僕は地に転がった。


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