20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第272回   終結の部の三十八
 なんだ、いったい、なにがどうなって……!?
 太陽が出た青空が、いきなり夜になった。いつものような、何かが圧縮されて溶けたような、感覚があったと思ったら、いきなり夜になったんだ。おまけに「ヨロイ」も解除された。
「まさか、大空震が……!?」
 そんな風に思っていたら、夜空をバックに、巨大な金色と白い影が現れた。
 白色の巨大な犬、そして、その尻尾の方にいる、金色の九頭竜。
 なんてことだ、ついに、魔災の元が……!!
 あんな巨大な怪物、どうやって倒すんだ!?
 僕の中が不安で渦巻いたとき。
「救世さん!!」
 そんな声とともに駆け寄ってきたのは。
「天夢ちゃん!!」
 女学生姿の天夢ちゃんだった。
 僕のところまで来た天夢ちゃんは、肩で息をし、呼吸を整えて、言った。
「よかった、間に合った!」
「間に合った、って、何が?」
「あたし、『今日』の朝早く、ここに来たんです。時刻は四時頃でした。あたし、なんとなく、何かが起きる予感がして。それで、これを折っていたんです。本当は、彫金がいいんですけど、顕空のものは持ち込めないし、こっちでのあたしは、そういうものに縁がないらしくて、道具とか揃わないので……!」
 そう言って、彼女が懐から出したのは。
「折り鶴、かな? でも」
 折り鶴が「二羽」だけど、羽根を一枚、共有したような、三枚の羽根を持った、折り鶴だった。
「連鶴の一種で、『妹背山』っていいます。あたしが前、プレートに刻んだのは、比翼の鳥。あれは、翼が二枚だけど、こっちは三枚です。だから、お互いが一枚ずつ、翼を持ってるし、お互いでも、一枚の翼を共有してる。だから」
 と、天夢ちゃんは僕をしっかりとした目で見た。
「あたしはあたしで、救世さんは救世さんだけど、でも、二人で一つでもあるんです。これ、『夫婦鶴(めおとづる)』とも呼ばれてるそうですよ?」
「あ、ああ、そ、そうなんだ……」
 なんか、今の状況に、全然そぐわない。そう思っていたら、天夢ちゃんが、巨大な白と金の影を見る。
「もし、救世さんの翼が一枚折れても、あたしの翼があります」
 その言葉には、彼女の強い想いがあったように感じた。
「あたしだけじゃありません。なんか、ここにいて、感じるんです」
 そして、天夢ちゃんが柔らかい笑みで、でも瞳には強い光を宿して僕を見た。
「救世さんには、みんなの翼があります。救世さん一人じゃないんです!」
 その言葉と同時に、僕の周囲に、金銀の太極図が現れた。数は八つ。
「八つ?」
 確か、今、アタッキングメンバーは、僕、天夢ちゃん、千宝寺さん、紫雲英ちゃん、浅黄さん、貴織さん、白倉さんの七人。じゃあ、もう一つの太極図は、誰の……?
「救世さん」
 天夢ちゃんが頷いて、僕から離れる。八つの太極図が、僕の周囲をグルグルと回り始めた。
 そして、僕の中に一つのキーワードが出てきた。
「招請、護世鎧(ごせいがい)!」
 太極図が僕に集まり、光の渦が僕を包んだ。
 そして、僕は「ヨロイ」をまとった。その時に気がついたんだ、いろいろと。
 夜空を見上げる。天頂に、満月が来ていた。
 でも、あれは、月じゃない。今、僕が感じていることが正しいとしたら。
 僕は意識を集中した。背中に翼が現れたのがわかる。
 天夢ちゃんがくれた翼だ。
 氣を発し、僕は急上昇した。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 2737