なんだ、いったい、なにがどうなって……!? 太陽が出た青空が、いきなり夜になった。いつものような、何かが圧縮されて溶けたような、感覚があったと思ったら、いきなり夜になったんだ。おまけに「ヨロイ」も解除された。 「まさか、大空震が……!?」 そんな風に思っていたら、夜空をバックに、巨大な金色と白い影が現れた。 白色の巨大な犬、そして、その尻尾の方にいる、金色の九頭竜。 なんてことだ、ついに、魔災の元が……!! あんな巨大な怪物、どうやって倒すんだ!? 僕の中が不安で渦巻いたとき。 「救世さん!!」 そんな声とともに駆け寄ってきたのは。 「天夢ちゃん!!」 女学生姿の天夢ちゃんだった。 僕のところまで来た天夢ちゃんは、肩で息をし、呼吸を整えて、言った。 「よかった、間に合った!」 「間に合った、って、何が?」 「あたし、『今日』の朝早く、ここに来たんです。時刻は四時頃でした。あたし、なんとなく、何かが起きる予感がして。それで、これを折っていたんです。本当は、彫金がいいんですけど、顕空のものは持ち込めないし、こっちでのあたしは、そういうものに縁がないらしくて、道具とか揃わないので……!」 そう言って、彼女が懐から出したのは。 「折り鶴、かな? でも」 折り鶴が「二羽」だけど、羽根を一枚、共有したような、三枚の羽根を持った、折り鶴だった。 「連鶴の一種で、『妹背山』っていいます。あたしが前、プレートに刻んだのは、比翼の鳥。あれは、翼が二枚だけど、こっちは三枚です。だから、お互いが一枚ずつ、翼を持ってるし、お互いでも、一枚の翼を共有してる。だから」 と、天夢ちゃんは僕をしっかりとした目で見た。 「あたしはあたしで、救世さんは救世さんだけど、でも、二人で一つでもあるんです。これ、『夫婦鶴(めおとづる)』とも呼ばれてるそうですよ?」 「あ、ああ、そ、そうなんだ……」 なんか、今の状況に、全然そぐわない。そう思っていたら、天夢ちゃんが、巨大な白と金の影を見る。 「もし、救世さんの翼が一枚折れても、あたしの翼があります」 その言葉には、彼女の強い想いがあったように感じた。 「あたしだけじゃありません。なんか、ここにいて、感じるんです」 そして、天夢ちゃんが柔らかい笑みで、でも瞳には強い光を宿して僕を見た。 「救世さんには、みんなの翼があります。救世さん一人じゃないんです!」 その言葉と同時に、僕の周囲に、金銀の太極図が現れた。数は八つ。 「八つ?」 確か、今、アタッキングメンバーは、僕、天夢ちゃん、千宝寺さん、紫雲英ちゃん、浅黄さん、貴織さん、白倉さんの七人。じゃあ、もう一つの太極図は、誰の……? 「救世さん」 天夢ちゃんが頷いて、僕から離れる。八つの太極図が、僕の周囲をグルグルと回り始めた。 そして、僕の中に一つのキーワードが出てきた。 「招請、護世鎧(ごせいがい)!」 太極図が僕に集まり、光の渦が僕を包んだ。 そして、僕は「ヨロイ」をまとった。その時に気がついたんだ、いろいろと。 夜空を見上げる。天頂に、満月が来ていた。 でも、あれは、月じゃない。今、僕が感じていることが正しいとしたら。 僕は意識を集中した。背中に翼が現れたのがわかる。 天夢ちゃんがくれた翼だ。 氣を発し、僕は急上昇した。
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