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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第270回   終結の部の三十六
 新が、五階建ての、ある建物の屋根で待機していると、そこへ、あるものが墜落してきた。なにかあったときは、ここに現れるように術をしかけておいたが、功を奏したようだ。
 その「あるもの」が、よろけながら、立ち上がる。
「せっかく『斉天大聖』というプロフィールを手に入れたのに、『気』も『功』も『業』も、蓄えられないまま、こういうことになってしまって。敵だけど、同情を禁じ得ないよ」
「あの時の、小娘か……」
 猿太閤が、憎々しげに、新を睨む。
「ギリギリだったんだ」
 と、新は言葉とは裏腹に余裕の笑みを浮かべて見せてやる。
「この間、ムラマサをこっちに送り込んだとき。もしかしたら、ペナルティーで、しばらくここに来られないかも、と思ったけど。ムラマサは『関係者』だったからね」
「キサマ、何を言っている?」
 如意棒を杖代わりに、立っている猿太閤は、満身創痍だ。救世心は、なかなか優れた護世士のようだ。だが、本来なら消滅しているはずなのに、まだ健在ということは、やはり、一筋縄では行かない相手ということか。本格的な復活を遂げていたら、おそらくテイボウ総掛かり、いや、本家総出でないと、倒せない化け物になっていただろう。
 猿太閤が如意棒を構える。その先から、槍の穂先が現れた。
「なるほど、『日本号』だね? いや、そのニセ物か。今のキミは、本物を使えるレベルにはない」
 新は意識を集中する。右に等身大の金の勾玉、左に、それと互い違いの、やはり等身大の銀の勾玉。
「真鎧纏装」
 新の唱えた咒とともに、両方から勾玉が新を挟み込む。猿太閤は槍を持って突進してきたようだが、その穂先は直径六尺(約百八十センチ)の、金銀の太極図に阻まれた。
 太極図を突き抜けるように飛び出した新は、鞘に収まったままの大光世で、猿太閤を殴る。それをよけ、猿太閤が間合いをとった。
 千紗からの連絡で、どうやら勾玉は、護世士の方で制御できるらしいと知った。そこで、彼女なりに推察し、ある結論を導いた。そして、その結論は、どうやら正しかったようだ。
「……勾玉は、そもそも『人々の思い』だった……」
 鞘から抜き放った大光世を構え、新は呟く。
 護世士が使う、勾玉。あれは、そもそも「歪みを消して、魔災を防いで欲しい」という、人々の願いだったのだ。
 ならば、この大正十二年界に満ちている人々の「護世の念」を結集できれば、「物理強化」「呪力強化」に縛られることもなかった。新は、ある種の呪術で、「物理強化」が起きたときは咒力が、「咒力強化」の時は物理力が強化されるようにして、総合的に両方が強化されるようにしていたが。
「そのことに気づけていれば、全員、両方の力が使えたのか」
 なぜ、そのことに、百年、いや、浄警の頃から考えたら、百五十年以上も気づけなかったのか。
 ひょっとすると「勾玉は、世界の選択」という先入観に、漠然と流されていたのが、原因かも知れない。
 救世心がテイボウに迎え入れられたのも、意味があったのだ。ある意味、彼が入ってよかった。
「でも、amoureuxも、紫雲英ちゃんも、渡す気はないけどね」
 それとこれとは、まったく別だ。
 そう思いながら、新は氣を高めた。
 猿太閤も、槍を構える。


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