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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第27回   壱の二十五
 この時点の僕たちは、身体能力が異常なレベルになっているらしい。あるいは、空間自体が縮むのか。あっという間に、空き地に来ていた。呼吸も苦しくない。
 到着したと同時に、目の前の空間が陽炎のように揺らめき、そこから、何かがにじみ出してきた。
 体長七、八メートルぐらいありそうな、黄色や黒、赤の、極彩色の大蜘蛛だ。まるでそれ自体が発光しているかのように、色形がはっきりと見える。
 あれ? 脚が七本しかない。左半身には、脚が三本しかないのだ。蜘蛛なら、八本だと思うけど。
 まあ、いいか。
 その時、僕の前に金色の勾玉が現れた。天夢ちゃんの前には、銀色の勾玉。
 ちょっとだけためらいがあったけど、僕は意を決して勾玉を握りしめた。そして。
「鎧念招身!」
 僕の声と同時に、天夢ちゃんの声が、誰もいない、夜の街に響く。
 周囲を虹色に輝く粒子が舞うのに合わせて、僕の体に「ヨロイ」が形作られていく。僕の場合は、白練り(しろねり)の袍に似た服だ。この格好の時に、霊力を通して闘う「霊闘技」の修練をしたからだ。ただ、腕には黒光りする籠手(こて)、手には、銀色のナックル・ダスター、足には、やっぱり黒光りする具足(ぐそく)がある。
 天夢ちゃんは、この前と同じだ。彼女、神社の娘さんだそうだから、上半身がああいう服装になるんだろう。学校の制服みたいなスカートは、多分、制服を着ているときに、強力な霊力を使った事があるって事だと思う。
 この格好になると、ためらいは消える。僕の中にあるのは、「闘う」意志と決意、使命感だ。
 天夢ちゃんが叫んだ。
「経津主(フツヌシ)!」
 彼女の左の腰に虹色の光りが閃き、一本の剣が現れる。それは、古代日本で使われていた、両刃の剣(つるぎ)だった。
 それを抜くと、彼女は懐から一枚の短冊のように細長い金属板みたいな物を取り出した。そして、呪文を唱える。
「謹請(きんじょう)! 招呼(しょうこ)・ヒゲキリの太刀!」
 短冊が、銀色の光を放つ。それを、柄頭(つかがしら)の、二つあるスリットの一つに差し込んだ。
 剣身が、眩いほどの銀光を放つ。
 僕も、気合いを込め、拳(こぶし)を構える。両の拳から銀色の放電に似た、光りが迸る。
 蜘蛛が口から糸を吐き出した。それを避けると、その糸は、近くの民家に絡みついた。そして、破砕音とともに、家がひしゃげる。
 糸が絡みついただけなのに!
 まるで、糸じゃなく、腕のようだ。まるで糸にかかった獲物は、決して逃さないかのように。
 僕たちは、左右に散開した。蜘蛛はどちらを狙うべきか、一瞬迷ったようだけど、僕の方に狙いをつけてきた。
 つまり「格下」を見抜いたわけだ。


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