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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第268回   終結の部の三十四
 帝都駅前大広場に、帝星建設の社屋がある。そして、今日は「創業日」だそうで、建物の前が賑わっていた。そこで僕が見たものは。
「帝星建設の野蔵修司社長さん、それに。……沢子さん」
 人だかりにいる人たちの話を聞いてみると、沢子さんは、社長さんの奥さんということになっていた。これは顕空の人との縁が変わったんじゃない。強制的に、「沢子さん」が……「えにし」が切り離されてるんだ。
 僕は人だかりをかき分け、創業挨拶をしている社長さんの前まで行った。
「な、なんだ、君は?」
 怪訝な表情になっている社長さんとの間に、静電気が走る。僕は懐から咒符を出した。
 文字が放電のような光を放っている。
「社長さん、あなた、ディザイアですね?」
 社長さんの顔が強ばる。「ディザイア」という言葉の意味はわからないだろうけど、僕が「自分にとって、危険な存在」だと、わかるらしい。そして。
「私がこの街を、国を、造るんだ!」 
 そう叫んで、傍にいた沢子さんを抱きしめた。
 驚愕の表情を浮かべ、沢子さんが叫んだ。いつもと違う、太くて低音の男の声……いつか聞いた、猿太閤の声で。
「待て! まだ、早すぎる!!」
 でも、それに構わず、社長さんが絶叫した。すると、沢子さんのお腹から金色の光が溢れてきて、次の瞬間!
 爆音とともに、二人の姿が光とともに爆ぜた。
 衝撃波で、みんな吹き飛ばされる。
 その中で受け身をとり、起き上がった僕が見たものは。
「ダイダラボッチ、か」
 体高三十メートルはありそうな土色の巨人。爺ちゃんが言ってたけど、一部では「国土建設の神」という解釈もあるらしい。
 人々が悲鳴を上げて逃げ惑う中、僕はキーワードを唱えた。
「塞神招請!」
 結界が形成される。周りの景色は変わらないけど、人々の姿は消えた。
 見上げると、頭部は人のものではなく、人の上半身。遠目にも分かる。あれは、猿太閤の上半身だ。
「若造! よくも! ここはキサマを倒し、今一度、時間を稼ごうぞ!」
 時間稼ぎ。つまり、懐胎秘法伝授之會でチャージしたエネルギーが、消滅させられて、次はあの教会の教主でエネルギーを蓄えようとしたけど、不十分な段階でまた解消させられて。そして今度は沢子さんと社長さんを利用したけど、ここでもエネルギーチャージに入る前に、こういうことになったんだ。
 野蔵修司社長の意思で実体化したっていうことは、猿太閤の意思が無視されたってこと。
 つまり。
「ヤツは、ただのディザイア同然の力しか持ってない」
 確信したとき、僕の目の前に金色の勾玉が現れた。
 銀は、現れない。でも、きっと現れる! それまでは!


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