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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第267回   終結の部の三十三
 八月十六日、水曜日、午前二時。
 何となく寝付けなくて、僕はお風呂に入って、湯船に浸かってた。
 なんか、落ち着かないんだ。なんとも形容できない感情が胸にある。
 これは、巨大な不安、かもしれない。
 そう思っていたら。
 僕は大正十二年界へ行った。 大正十二年界では八月十六日木曜日、午前十時、快晴。
 僕が来たのは、帝都駅周辺の通りだ。そして、そこで、僕は見つけたんだ。
「平田古書……」
 いつだったか、平田古書の立て看板を見た。でも、その時は建物を見つけることが出来なくて。
 僕は、そこへ入ることにした。ドアを開ける。そこにいたのは。
「よう、救世」
「面河さん」
 着物に袴姿の面河さんが、椅子に座って、なにかの本を読んでいた。
「ここにいたんですか」
 大正十二年界では、面河さんを見たことがなかった。テイボウのメンバーは、必ずしも全員が大正十二年界へ行くわけじゃないけど(例えば、江崎副頭は、今は行かなくなっているそうだし、そもそも御苑生さんは行かないという)、面河さんは、なんとなく来てるんじゃないかっていう感じはあったんだ。
 面河さんが本を本棚に戻して、立ち上がる。
「いつもいるわけじゃない。気が向いた時に、来て、店を開いてる」
「出来るんですか、そんなこと?」
「まあな。コツがあるんだよ」
 驚いた。いつも無意識、っていうか、「呼ばれる」から行ってる感じがあるんだけど。
 まあ、白倉さんは、自分の意志で行動できてるようだから、何らかのテクニックみたいなものがあるのかもしれない。
 穏やかな笑みの面河さんが、僕を見て言った。
「答え、見つけたか?」
「え?」
「前、言ったろ、お役を見つけろ、って?」
 面河さんの笑顔を見ていて、この間から、なんとなく感じてることが、徐々に明確なものになっていく。
 だから、僕は。
「……はい」
「そうか」
 満足げに頷いて、面河さんは言った。
「さ、今日はもう、店じまいだ」
「え? まだ、十時ですよ? ていうか、開けたばかりなんじゃ?」
「さっきも言ったぞ? 気が向いた時って。ささ、帰った帰った」
 ニヤついて僕の背を押し、面河さんは僕を店の外に押し出した。そして。
「救世。あとのことは任せたぞ?」
 そう言ってドアを閉め、鍵をかけた。
 僕は。
 行くべきところへ、行くべきような感じがしていた。


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