八月十六日、水曜日、午前二時。 何となく寝付けなくて、僕はお風呂に入って、湯船に浸かってた。 なんか、落ち着かないんだ。なんとも形容できない感情が胸にある。 これは、巨大な不安、かもしれない。 そう思っていたら。 僕は大正十二年界へ行った。 大正十二年界では八月十六日木曜日、午前十時、快晴。 僕が来たのは、帝都駅周辺の通りだ。そして、そこで、僕は見つけたんだ。 「平田古書……」 いつだったか、平田古書の立て看板を見た。でも、その時は建物を見つけることが出来なくて。 僕は、そこへ入ることにした。ドアを開ける。そこにいたのは。 「よう、救世」 「面河さん」 着物に袴姿の面河さんが、椅子に座って、なにかの本を読んでいた。 「ここにいたんですか」 大正十二年界では、面河さんを見たことがなかった。テイボウのメンバーは、必ずしも全員が大正十二年界へ行くわけじゃないけど(例えば、江崎副頭は、今は行かなくなっているそうだし、そもそも御苑生さんは行かないという)、面河さんは、なんとなく来てるんじゃないかっていう感じはあったんだ。 面河さんが本を本棚に戻して、立ち上がる。 「いつもいるわけじゃない。気が向いた時に、来て、店を開いてる」 「出来るんですか、そんなこと?」 「まあな。コツがあるんだよ」 驚いた。いつも無意識、っていうか、「呼ばれる」から行ってる感じがあるんだけど。 まあ、白倉さんは、自分の意志で行動できてるようだから、何らかのテクニックみたいなものがあるのかもしれない。 穏やかな笑みの面河さんが、僕を見て言った。 「答え、見つけたか?」 「え?」 「前、言ったろ、お役を見つけろ、って?」 面河さんの笑顔を見ていて、この間から、なんとなく感じてることが、徐々に明確なものになっていく。 だから、僕は。 「……はい」 「そうか」 満足げに頷いて、面河さんは言った。 「さ、今日はもう、店じまいだ」 「え? まだ、十時ですよ? ていうか、開けたばかりなんじゃ?」 「さっきも言ったぞ? 気が向いた時って。ささ、帰った帰った」 ニヤついて僕の背を押し、面河さんは僕を店の外に押し出した。そして。 「救世。あとのことは任せたぞ?」 そう言ってドアを閉め、鍵をかけた。 僕は。 行くべきところへ、行くべきような感じがしていた。
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