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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第266回   終結の部の三十二
 その二枚のメモリーカード、一枚はICレコーダーのもので、おそらく修司が持参した鞄か何かに仕込んであったもの(そのため、音声は不明瞭だったが、充分、解析可能な範囲だった)。もう一枚は画像データで、修司と土原の密約を示す、「密約文書」や「収支報告」文書の類いだった。おそらく、これが、津島が幹山から渡された「証拠」なのだろう。作成者は幹山を遠隔操作した人物に違いない。データの内容から見て、修司が土原と会うときなどに同行し、また連絡役をしていた人物に間違いないから、すぐにその人物は特定できるだろう。
 自ら告発に動かなかったのは、おそらく報復を恐れてのことだろうから、二荒には、慎重に動くように釘を刺しておかねばならない。
 それぐらいは、わかっているだろうが。
 そういった証拠を示しながら、二荒は言った。
「あなたの会社の口座の動き、調べました。なんだか、大きな額が、面白い動き方してますね。子会社に行ってから、別の子会社へ移り、ある口座に移ってる。それ、あなたの隠し口座ですよね? そのお金、帳簿上は、どうなっているか、確認したいんです。まあ、何らかの『取引』があったことになってるんでしょうけど。もちろん、土原議員の方の帳簿も、調べますけどね?」
 修司が、糸の切れたマリオネットのように、力なく、椅子の上に落ちた。
 かわいそうだが、こちらも仕事をしないとならない。佐之尾は、言った。
「私からもいいですか? ぜひ、お聞かせいただきたいんですよ、津島行延氏殺害と、奥坂直次氏の殺害、その教唆について」
 驚いたように、修司が佐之尾を見上げる。その驚きの意味は、わからない。覚えがないのか、バレるはずはない、なのか。だが、いずれにせよ。
「今日、この癒着の証拠を突きつけたら、二人とも、面白いように、ベラベラと喋ってくれましたよ、津島・奥坂両氏の殺害について」
「二人? そ、それはいったい……?」
 本当に心当たりがないのか、それとも、喋るはずがない、と信じていたのか。それはわからない。
 佐之尾は、口元に挑戦の笑みを浮かべて言った。
「大田原溢美と、阿良川夏彦です。癒着がバレた以上、隠す必要はないと思ったのか、あるいは、護ってはもらえない、と判断したのか。特に溢美は、あなたに対する罵詈雑言まで、オマケしてくれました」
 修司が震えだした。
 佐之尾は言った。
「社長さん。大企業のトップともなれば、清濁併せのむ器量が必要です。でもね?」
 と、両肘をデスクにのせ、顔を近づけて言った。もちろん、口元に笑み……哀れみの笑みを浮かべて。
「泥水を、極上のワインだと思ってちゃあ、いかんでしょう?」
 修司が頭を抱えて、嗚咽を始めた。

 社長室を出て、佐之尾は二荒に言った。
「貸し、一、な」
「バカ言え、これで、この前のが、チャラだ」
「ああ、そうかい」
 そして、一階に降り、自動販売機で缶コーヒーを買おうとして。
 好みの銘柄が二荒と被り、先に譲ったら、そこで、売り切れになってしまった。
 別のにしようと、見ていたら、二荒が缶を差し出した。そして一言。
「貸し、一だ」
 それを見て。
「ふざけるな」
 笑顔で、佐之尾は、缶を受け取った。


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