八月十五日、午後三時半。 秘書の制止を振り切り、帝星建設社長室のドアを、捜査一課の佐之尾警部と、捜査二課の二荒警部が開け放つ。 「な、なんですか、刑事さん!?」 明らかに狼狽して、野蔵修司社長が、椅子から立ち上がる。 そうだろう。アポなど取っていない。ただ「今日、この時間」、ここにいることだけを確認しているのだから。 まったく気後れすることなく、佐之尾と二荒は修司に歩み寄る。まず口を開いたのは、佐之尾だ。 「社長さん」 と、口元に、挑戦的な笑みを浮かべる。 「先日は、大田原さんの件でお世話になりました」 「え? あ、ああ。警察に協力するのは、一般市民の義務ですから」 「今日も、ご協力願えますか?」 「は、はあ」 何を言われるのか、と、修司は不安げに、佐之尾と二荒を見る。 佐之尾が二荒を見る。二荒が、厳しい顔で言った。 「県警捜査二課の、二荒、といいます。野蔵修司さん、あなたと県議会議員、土原満武氏との関係について、ぜひとも、お話をお伺いしたい!」 修司の表情が、明らかに凍った。だが、どうにか、取り繕うつもりのようだ。 「お、仰る意味が、わ、わかりませんが……?」 二荒は、説明を始めた。 「先月、フリージャーナリストの津島行延という人が、中埜石市で殺害されました。彼、お宅と土原議員との癒着について、調べてたんですが」 引きつるような声を上げた修司だが、やはり空とぼける。 「癒着など、そんなもの、あるわけないでしょう!?」 その言葉に構うことなく、二荒は言う。 「津島さん、ある『メッセージ』を、ここ上石津市の上石津銀行の、貸し金庫に隠していましてね」 「メッセージ?」 修司が怪訝な顔をする。やはり、この男、津島が残したメッセージには、まったく気がついていなかったようだ。もっとも、だからこそ、今日、ここに来ることが出来たわけだが。 二荒は続ける。 「詳細は省きますが、ある『トリック』が仕掛けてありまして、そのトリックを解いたところ、『実家の換気扇の羽根の裏』というメッセージが出てきたんですよ」 そう言って、二荒は一枚の紙を見せる。飛び飛びで文字があり、それを繋げると「実家の換気扇の羽根の裏」と読める。 津島が貸金庫に隠していた「メッセージ」だ。あの「日記」は、フリクション・ボールペンで書かれていたが、ところどころ、別のペンで書かれていた。だから、フリクションのラバー部分でこすると、別のペンの文字だけが残り、それを繋げると「実家の換気扇の羽根の裏」という「メッセージ」が現れたのだ。それに基づき、すでに空き家だったそこを調べたら、二枚のメモリーカードが貼りつけてあったのだ。さらに、そこに侵入してきた大石節雄という、窃盗犯も捕まえることが出来た。大石は、阿良川に、半ば脅される形で、ここに侵入したという。阿良川は、あのメッセージまでは知らなかったようだが、津島が残した動画のことは知っていて、この家のことを突き止めていたという。どうやら、殺した奥坂から、聞いたらしい。
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