須ヶ原の顔が引きつる。 「阿良川、大石を脅しがてら、言ったそうですよ、『もっと、かしこく立ち回れば、奥坂も俺に殺されることはなかっただろうに』って」 須ヶ原が真っ赤になる。 「そ、そんなコソ泥風情の言うことなど、真に受けるのは、どうかしている!!」 「だとしても、阿良川が津島殺しに関与していることは、溢美がほのめかしているようですよ?」 「それは、本件と関係ない! というか、そんな女の言うことなど、信用できるか! どうせ、自分の罪を軽くしたくて、口から出任せを言っているんだ!」 「そうかも知れませんね」 と、答えてから、秋恵は言ってやった。 「でも、津島殺しも奥坂殺しも、ある『キーワード』……帝星建設で繋がっています。そのどちらにも阿良川の名前が出て、しかも、コソ泥風情の口からも阿良川の名前が出てくるのを、偶然と片付けるのは、いかがでしょうか?」 「うるさいうるさい! そのコソ泥も、阿良川に罪をなすりつけているんだ!」 言うことがメチャクチャになってきた。まずい、今にも吹き出しそうだ。それをこらえ、秋恵は言った。 「そんなことしたら、阿良川に何をされるかわからない。阿良川のことを知っていれば、彼の過去もわかるはず。かえって危険なのに、そんなことをするなんて……」 須ヶ原が美澤を見る。 「署長、言っておいたでしょう、飼い犬には、ちゃんと首輪つけとけって!!」 その言葉に、美澤の眉が動く。そして。 「管理官。ご存じですか? 飼い犬って、飼い主に似るんだそうですよ?」 「……? なんだ? 何を言っている?」 美澤が、鼻を突き合わせんばかりに、須ヶ原に迫る。 「随分、うろたえておいでですね? 早く帰って、善後策を練られた方が良いのでは? それで。……お前のバックに言っとけ、『首を洗って待ってろ』ってな!」 美澤には、それとなく須ヶ原の背後に、県議の土原がいることを言っておいたが。 須ヶ原が震え、何かを言いかけ。 しかし、何も言うことなく、美澤と秋恵を睨み、部屋を出て行った。 美澤が毒づいた。 「フン! 私の部下を何度も何度も『イヌ』呼ばわりしやがって、この木っ葉役人が! 私が出世したら、お前なんぞ、一生、雑用に使ってやるからな!」 そして、少し置いて。 「まあ、無理か……」 と呟いた。 それを聞き。 我慢できなくなった。 声を立てて笑い始めた秋恵を見て、美澤が首を傾げた。 「申し訳ありません、署長!」 と、秋恵は言った。 「必ず、阿良川を落としてみせます!」 「ああ。頼むよ。啖呵(たんか)、切った以上、後には、ひけんからなあ」 と、美澤は苦笑した。
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