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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第264回   終結の部の三十
 須ヶ原の顔が引きつる。
「阿良川、大石を脅しがてら、言ったそうですよ、『もっと、かしこく立ち回れば、奥坂も俺に殺されることはなかっただろうに』って」
 須ヶ原が真っ赤になる。
「そ、そんなコソ泥風情の言うことなど、真に受けるのは、どうかしている!!」
「だとしても、阿良川が津島殺しに関与していることは、溢美がほのめかしているようですよ?」
「それは、本件と関係ない! というか、そんな女の言うことなど、信用できるか! どうせ、自分の罪を軽くしたくて、口から出任せを言っているんだ!」
「そうかも知れませんね」
 と、答えてから、秋恵は言ってやった。
「でも、津島殺しも奥坂殺しも、ある『キーワード』……帝星建設で繋がっています。そのどちらにも阿良川の名前が出て、しかも、コソ泥風情の口からも阿良川の名前が出てくるのを、偶然と片付けるのは、いかがでしょうか?」
「うるさいうるさい! そのコソ泥も、阿良川に罪をなすりつけているんだ!」
 言うことがメチャクチャになってきた。まずい、今にも吹き出しそうだ。それをこらえ、秋恵は言った。
「そんなことしたら、阿良川に何をされるかわからない。阿良川のことを知っていれば、彼の過去もわかるはず。かえって危険なのに、そんなことをするなんて……」
 須ヶ原が美澤を見る。
「署長、言っておいたでしょう、飼い犬には、ちゃんと首輪つけとけって!!」
 その言葉に、美澤の眉が動く。そして。
「管理官。ご存じですか? 飼い犬って、飼い主に似るんだそうですよ?」
「……? なんだ? 何を言っている?」
 美澤が、鼻を突き合わせんばかりに、須ヶ原に迫る。
「随分、うろたえておいでですね? 早く帰って、善後策を練られた方が良いのでは? それで。……お前のバックに言っとけ、『首を洗って待ってろ』ってな!」
 美澤には、それとなく須ヶ原の背後に、県議の土原がいることを言っておいたが。
 須ヶ原が震え、何かを言いかけ。
 しかし、何も言うことなく、美澤と秋恵を睨み、部屋を出て行った。
 美澤が毒づいた。
「フン! 私の部下を何度も何度も『イヌ』呼ばわりしやがって、この木っ葉役人が! 私が出世したら、お前なんぞ、一生、雑用に使ってやるからな!」
 そして、少し置いて。
「まあ、無理か……」
 と呟いた。
 それを聞き。
 我慢できなくなった。
 声を立てて笑い始めた秋恵を見て、美澤が首を傾げた。
「申し訳ありません、署長!」
 と、秋恵は言った。
「必ず、阿良川を落としてみせます!」
「ああ。頼むよ。啖呵(たんか)、切った以上、後には、ひけんからなあ」
 と、美澤は苦笑した。


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