十三日、日曜日の夜。午後十時になった頃だった。 秋恵は、捜査の進捗状況について、美澤警視に報告していた。 ふう、と、美澤が溜息をつく。 この男、自殺で片付きそうにないんで、思い切り頭、抱えてやがるな、と思いながら,秋恵は言った。 「今、お話ししましたように、阿良川が落ちるのも、もうすぐです。大田原溢美の方の捜査状況にもよりますが、津島と奥坂に繋がりがある以上、溢美と阿良川にも、何らかの繋がりがあるはず。県警の佐之尾警部のお話では、溢美の方で、いろいろ、面白い動きがあったそうですし、中埜石市の方でも、動きがあったそうですし」 「面白い動き、とは?」 諦めきった、あるいは、憔悴した、そんな風に見える表情だ。こいつ、県警管理官に睨まれたら、出世はおろか、退職後の再就職にも支障があると思ってやがるな? そんな風に思いながら、秋恵は言った。 「今日の昼に、溢美の身柄が県警に移送されたのは、ご存じですね? 溢美、自供を始めたそうです。津島と接触していたことを隠しきれなくなったばかりか、社長の愛人で、しかも阿良川をマンションの部屋に連れ込んでいたのを突き止められて、いろいろパニックになったようですね。もろもろ話し始めたそうです。阿良川の知り合いに毒物に詳しい者がいて、そいつが作った毒を、阿良川からもらって使った、ということで、県警では、そちらの捜査も始めたとか。それに何より」 そこまで言ったとき。 署長室のドアが、ノックなしに開けられた。 ズカズカと入ってきたのは、須ヶ原管理官。 「署長! どういうことですか! 即刻、阿良川を釈放しなさい!」 秋恵はわざと蔑んだような調子で言ってやった。 「あら、管理官? 犯罪者を野に放て、と?」 「誤認逮捕だ!」 「硝煙反応が出ているんですが?」 「今の時期、花火ぐらい、するだろう! その火薬残渣だ!」 言うに事欠いて、花火、ときた。思わず笑いが漏れそうになったが、それをこらえ、秋恵は言った。 「ジャーナリストの津島なんですが。ある『動画』を残していたそうです」 「動画?」 イラついているように、須ヶ原はオウム返しをする。 「それ、津島の生家、というか、現在、空き家状態の実家と、そこに至る道を撮影したものだったそうです。それで、県警がそこへ行ったところ、そこに侵入していた大石という男を、不法侵入で現行犯逮捕したそうです」 「それが!? どうかしたのか!?」 「この大石という男、窃盗の常習犯で、上石津署(うち)でも、逮捕したことがあるんですが。あるものを探していたんだそうです。……阿良川に頼まれて」
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