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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第262回   終結の部の二十八
「殺された、奥坂さんですが。ご友人に津島さんというジャーナリストが、いましてね。この人も先月、何者かに殺害されてしまいました。津島さんですが、ある議員と、帝星建設の癒着について、調べていたそうです」
「おや? 癒着? そりゃあ、たいへんだ。それが本当なら、会社、やばいじゃないですか。次の就職先、探さないとならないですねえ。こんなところで、刑事さんと遊んでる時間、ないですなあ?」
 また、鼻で嗤う。
 国見の推理だが。
 津島殺害に、直接か間接かわからないが、この阿良川も絡んでいる。そして、何らかの形で、津島が持っている情報なり証拠なりを、奥坂が共有していると考えた「黒幕」の指示で、奥坂が殺されるに至った。
 八日に会って以降、佐之尾とも、情報を密に共有していた。津島殺害の容疑者の中に大田原溢美という、やはり帝星建設の社員がいる。そうなると、黒幕は十中八九、社長の野蔵修司だろう。
 この阿良川という男、帝星建設の「闇」の部分で動いているのは間違いない。
 今、溢美も、この上石津署で、県警の刑事たちによる取り調べを受けているが、まだ任意の段階で落ちないらしく、県警に身柄を移送できないでいる。つまり、ここにいるのだ。これが、なにかの突破口にならないか?
 例えば、だが。なんらかの「手違い」を装って、二人を会わせ、何らかの接触を行わせるとか。
「……無理そうだな、この様子じゃ」
「? なんか、言いましたか、刑事さん?」
「なんでもない」
 国見は、次の手を出す。
「奥坂さんが殺害された周辺で、採取されたタイヤ痕の一つが、あなたの車のものと、同一車種であると、鑑定されているんですが?」
「同じタイヤなんて、ゴロゴロあるでしょ?」
 確かにそうだ。検出された部分には、これといった特徴がなかった。
 どうしたものか、と思ったとき。
 部屋に純佳が入ってきて、国見に耳打ちした。
 その様子を見る阿良川の表情に変化はないが。
 話を聞き終え、国見は立ち上がった。そして、阿良川の背後に立つ。
「車のセンターピラー、ここにシートベルトを中継するスルーアンカーていうパーツがあります。あなたの車の、運転席側のスルーアンカーに、火薬残渣が認められたそうです」
 阿良川が驚愕の表情を浮かべて、国見を見る。咄嗟に見てしまった、そんな感じだった。
「例えば、ですが。皮手袋をはめて、奥坂さんの右手を覆い、拳銃を発砲。その手で、自分の車に乗り、シートベルトを引き出すときに、硝煙の付着した手の甲を、スルーアンカーにこすりつけてしまった」
 阿良川が、国見から目を逸らし、余所を見る。だが、そこには純佳がいて、まずいと思ったか、また別の方を向いた。
「まっとうな日常生活を送る分には、自家用車のそんなところに、硝煙が付着する、なんてこと、ないんですよ。その辺、詳しくお聞かせ願えますか、阿良川夏彦さん?」
 覗き込むと、阿良川は、先刻までとはうってかわって、難しい顔をしているだけだった。
 おそらく黙秘に転じるつもりだろうが、絶対に落とす。
 そう決意して、国見は阿良川を睨んだ。


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