それは、突然だった。 鞍橋材木店の、僕に宛がわれた部屋にいるとき、空気が急に粘っこくなって、それが溶けながら上へと流れていくような感覚。 まるで「時間や空間が圧縮されて、溶けた」ような感じ。 あの夜、八月二十八日午後九時が、いきなり八月三十一日午後十一時になった時と同じ感覚だ。 「まさか……!」 僕は部屋を飛び出した。居間へ行くと、まだ明かりは点いていたけど、誰もいなかった。柱時計は午後十一時。そして、僕は新聞を見た。 「大正十二年八月三十一日」とある。 「そんな……!」 また、……また、時間が圧縮されて、大震災の前日に……! 僕は、家を飛び出す。 あたりは、こうこうと明かりが照りわたっている。にもかかわらず、人の気配がまったくない。それ以前に、この時代、こんな時間に街中の明かりが点灯していること自体が有り得ない。 この間と同じだ。 すると、また、バビロンの大淫婦や、ケルベロスが現れるのか? 不安で心臓が早鐘を打つ。僕の腕じゃ、あの怪物は倒せないかも知れない。また、大空震を起こしてしまうかも知れない。そうすると、歪みが蓄積されて、大災害が起きてしまうかも知れない……。 せめて、千宝寺さんが来ていて、彼女が護世士に選ばれますように……!
しばらく走り回っていると。 「救世さん!」 天夢ちゃんの声がした。そっちを見ると、女学生姿の天夢ちゃんが、こちらに駆けてくる。 僕に追いつくと、まったく呼吸が乱れている風でもなく言った。 「例の場所に、ディザイアが現れる兆候があります!」 「そう。で、他に誰か、来てる?」 天夢ちゃんは、黙って、首を横に振る。 なんてことだ。これじゃあ、あの時のように……。 でも、今は、ディザイアを倒すのが先決だ。僕たちは教会が建っていた空き地へ行った。
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