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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第258回   終結の部の二十四
 八月十三日、日曜日、午前十時半。
 佐之尾は一課長に、捜査の途中経過を報告する意味もあり、県警本部に帰っていた。そして、そこで、一足早く帰っていた片岡が、まるで佐之尾を待ち構えていたように言った。
「警部! 面白いことが分かりました!」
「面白いこと?」
「はい! とりあえず、科捜研に来てください!」
 科捜研ということは。
 なんらかの「物証」が出たのだろう。期待を胸に、佐之尾は科捜研へ向かう。そして、ある技官から、説明を受けた。
「津島行延の自家用車の助手席から発見されていた繊維と、先日、片岡くんが持ち帰った繊維、照合の結果、一致しました」
 十一日、朝。佐之尾たちは、大田原溢美の部屋を、やや強引だったが、家宅捜索し、ウィッグ……かつらを押収していた。そのかつらの特徴と、津島が隠し撮りした女の髪型が似ていたことから、科捜研で分析させていたのだが。
「このウィッグですが、使われた繊維、染料から、メーカーが特定できてます。さらに、そのメーカーによると」
 と、技官が一枚の紙と、そのメーカーが発行したチラシを提示する。
「これは、六月半ばから発売された新商品で、人工繊維か人毛か、長いか短いか、ストレートかパーマか、どんな染料を使うか、細かくオーダーできるそうです。製造するのに、時間がかかるので、まだ、そんなに出回ってないそうですし、この長さで繊維の種類、パーマのレベル、そして使われている染料、これらが全て一致するかつらを購入したのは、ただ一人だそうです」
 提示された紙は、鑑定書。それに記載されている名前は。
「よし!」
 佐之尾は右の拳を強く握った。これで、少なくとも、溢美が津島の車に同乗していたことが証明できた。これを突破口にして、崩していこう。
 とりあえずは、向こうに残っている文山に連絡して、溢美の身柄を押さえよう。午後一番にでも、この鑑定書を突きつければ、おそらく言い訳をし、そこからボロが出るに違いない。
 そう思いながら、片岡とともに、捜査一課室に戻ると。
「あ、片岡、お前、俺の車に何やってくれてんだよ!」
 一人の若い刑事がいた。
「ああ、ごめん。でも、ちゃんと、タイヤ、買い換えてつけといた、って言ったろ?」
「そういう問題じゃないんだよ! 純正とまではいわないけど、ちゃんとロードインデックス、確認しろよ!」
 会話にちょっと興味を覚えたので、佐之尾は片岡に聞いてみた。
「片岡、お前、何やった?」
「え? ああ、今、僕の車、車検に出しているんです。でも、いい代車が手配出来なかったんで、昨日、こいつ……三課の小谷野から、車、借りたんですけど。アパートの駐車場でパンクさせちゃいまして。それで、新しいの、買ってきて、自分でつけたんです。業者さんに頼むと、出張費とか、工賃とか、余分にお金、かかりそうだったんで」
「それぐらい、サービスしてくれるよ! ていうか、いろいろ、聞かれたろ、タイヤのデータ!?」
「ああ、でも、よくわからなかったから、似てるの選んで、『これと同じヤツ』って言って。で、後輩の車に乗せてもらって、アパートまで帰って、自分で……」
「オヤノ」と呼ばれた刑事がうんざりしたように言った。
「俺の車のタイヤ、ロードインデックスは109! 105をつけてどうするんだよ!?」
「……なんか、まずいの?」
 小谷野は、出来の悪い子どもを叱るように言った。
「タイヤには、負荷重量っていうものがあるんだ。番号によって、耐えられる負荷が違ってて、109のタイヤつける車に、105をつけると、すぐにパンクしたり、トラブルの元になるんだよ!」
 どうしようもないヤツだ、と思いながら、苦笑を浮かべて、佐之尾は言った。
「お前、そういうのは、ちゃんと業者さんに任せろよ」
「はあ、すみません」
 と、片岡は、佐之尾からも言われて、頭を下げる。
 まったく、本当にどうしようもないヤツだ、と思いながら、ふと、佐之尾はある引っかかりを覚えた。そして。


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