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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第255回   終結の部の二十一
 八月十四日、午後十一時五十五分。冥空に行くと、八月十四日、午後十一時五十五分。
 緊急会議での占断の結果は「沢天カイの上爻。覚悟を決めるべき」だった。そして、伊佐木が「死んだまま」については「天雷ム妄の初爻。推移を見るのが良い」だった。
 今、僕は帝都駅前の「帝星建設社屋」の前にいる。隣には、天夢ちゃん。結界は既に張っていて、僕たちの前には、鎧武者のディザイア。
 僕は、鎧武者に向かって言った。
「あなた、富士岡朝円さん、ですよね?」
 鎧武者が、少しだけうろたえたように、身じろぎする。
 しばらくおいて。
「なぜ、わかった?」
 原理はわからないけど、今の声は、前のような電子音じみた声じゃない。
「あなたの名前、朝円(ともかず)。これ、別の読み方をしてみたんです、『あさまる』って。で、これをローマ字にすると『ASAMARU』になります。これをひっくり返すと『URAMASA』、『ウラマサ』。これに『富士岡』の『富士』、この『富士』を富士山と解釈して、その山の形を『M』に見立てて、くっつけると」
 僕は一呼吸置いて、言った。
「『MURAMASA』、『ムラマサ』になります。あなたが『ムラマサ』を名乗ったのは、妖刀の村正を持っていたからだけじゃない。ある意味であなたという人間を『殺した』、帝星建設に祟る、という意識があったから、ですね?」
 少し置いて、ムラマサ、いや、富士岡さんは言った。
「ちょっと違うよ。Mは、富士山のマークじゃない。無、MUのMだ。僕は、自分自身を『無』にしたかったんだ」
 そして、兜を脱いだ。
「でも、どうして、僕はここに来たのか。よくわからないんだけど?」
 そうだろうな。だから、僕は説明した。
「僕の推測を、仲間に話したんです。そうしたら、仲間の中で、なんていうか、メチャクチャなことが出来る人がいて、その人が、『試してみる価値はあるだろう』って、呪術を仕掛けたんです。あなたを、ここに送り込む呪術を」
「送り込む?」
「ええ。もしあなたが、ムラマサでないなら、『普通の人』としてここに来るけど、もしムラマサなら。……ここでは、あなたは『鎧武者』として認識されているので……」
 富士岡さんが苦い顔になる。
「そうか。命令系統とか、システムとか、かなりしっかりとした組織なんだろうな、って気はしてたけど。そんなのもいるんだ」
 と、悔しげに言う。
 ちなみに、「顕空や冥空で『護世士として認識されている』、ある種『レギュラー』であるテイボウのメンバーと違って、無関係の人間を送り込むのは、かなりの負荷がかかる」って言ってたな、白倉さん。ひょっとしたら「ペナルティーが発動するかも?」ってことだろうか? タイミングによっては、まずかったかも知れない。
 でも、それはとりあえず、置いておこう。
「富士岡さん、あなたがこんなことをしたのは、去年の横領事件が、考えた以上の大事件になってしまったから。そうですね?」
「ああ。僕がもっと、うまく行動すれば、おそらく石毛社長は自殺することはなかったはずだし、合崎さんも、あんな状態にはならなかった。すべて、僕のせいだ。……横領事件が大々的に報じられた後、僕は不眠症になった。不安症にもなった。睡眠薬を処方してもらって。そして、今年の二月、石毛社長が自殺したことを聞いたとき、僕は、睡眠薬を大量に飲んだ。その時に……」
「その時に、あの女たち……太閤妃や太閤后……。いや、『滝陽華(たき はるか)』に出会ったんですね?」
 富士岡さんが、苦笑を浮かべる。
「なんでもお見通しなんだね、君は」
 やっぱりそうか。あの「滝陽華」って女の写真を見たときに、直感的に思ったんだ。もしかしたら、「滝陽華」が二人に分かれて「太閤妃、太閤后」になった、あるいは、「太閤妃、太閤后」が「滝陽華」という一人になったんじゃないか、って。
 単なる勘かも知れないけど、冥空で見たあの白黒と、あの写真が、僕の中では、重なっていた。
「そう、あの女に出会った。こっちへ来るようになって、しばらくしてから、太閤妃、太閤后の二人になったんだ。その時に『猿太閤』のことも聞かされて、その復活を手伝えと言われた。手伝ったら、僕の望み……僕が不幸にしてしまった人たちへの、罪滅ぼしの手助けをしてくれる、って言われたんだ。そして、株主総会が終わって、僕の決意が固まって、あの刀を……村正を渡された」
 天夢ちゃんが頷きながら言った。
「だから、ディザイアを護ってたんですね」
「でも」
 と、僕は言った。


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