「どうしたの、救世くん、今日は朝から元気なかったけど?」 休憩室で、生田さんが僕に言った。 この休憩室にいるのは、僕や生田さん、それから、各フロア担当の人たち。一応、休憩時間は時間差になってて、今の時間は二階と四階、屋外駐車場の担当の人たち、合わせて七人だ。 「あ、いや、この二、三日で、へこむことが続いて」 事実だし。 しばらく僕を見てた生田さんだけど。 「私、夜シフトで入ってる企業さんに勤めてる人から、面白い話、聞いちゃった!」 と、笑顔になった。その顔に、なんだか「気遣い」みたいなものを感じて、僕はその厚意に、乗ることにした。 「なんですか、面白い話って?」 「ここさ、去年、横領事件があったでしょ? あれ、告発したのって、富士岡さんだったんだって!」 静かに衝撃が僕を貫いた。しかし、それに浸るのを邪魔するかのように、二階担当の、女の人が言った。 「え? どういうこと、それ?」 「これ、話してくれたの、富士岡さんの、大学時代のお友達なんだそうで、富士岡さん本人から聞いたそうなんだけどね? 去年の、あるときから、当時の管理主任さんが、やたらと、書類のハンコを、押し直してくれ、って、持ち回るようになったんだって。あるときは『破っちゃった』、あるときは『間違って、シュレッダーにかけちゃった』とか。で、あんまりそういうことが続くんで、主任さんに提出する前の書類を写メに撮って、あと、主任さんが書類を持ってきた時も、『あとで押すから、そこに置いといてくれ』って、言って、こっそり写メ、撮ったんだって。で、見比べたら、明らかに数字が変わってて! そのことを指摘したら、『必ずお金は返すから』って言ったらしいんだけど。でも、やっぱり気になって、昔、開発事業部の工事監理課にいた時に、お世話になった、当時の副部長さん、今の人事部長さんに、相談したんだって。そうしたら、あんな大騒ぎになって! 富士岡さん、泣いてたそうよ、『自分がもっとうまく立ち回っていれば、石毛建設設計も、合崎電業も、倒産することなく、たくさんの人が不幸になることはなかった』って」 ……。 そうか。だから、あの人……。 「たえちゃん、よくそんな、重くて込み入った話、聞けたわよねえ? その人も、普通は、話さないでしょ、そんなこと? もしかして、ベッドで聞いたのかなあ?」 「や、やだあ、臼谷さん、違いますよう!」 照れてる生田さんの表情を見ると、図星っぽいけど、それはどうでもいい。 僕が推測してることも、合わせて、今夜の会議で話した方がいい。
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