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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第253回   終結の部の十九
 八月二十五日、土曜日の午後十一時だったんだ!
 でも、それが、例の感覚があって、いきなり三十一日に!
 僕は屋敷を飛び出した。
 何が何だか、わからない!
 やっぱり間隔が短くなっていってるんだろうか!?
 でも、異様な気配は、いつもとは違う。あの八岐大蛇や、オルトロスが現れる、そんな気配とは違う。うまく例えられないけど。
 でも、何らかの「脅威」であることに変わりはない!
 気配の漂ってくる方を探って、走り、その気配の元に辿りついた。五、六メートルほど先の、そこにいたのは。
「……沢子さん……」
 この時代には、明らかに不似合いな、JKの格好をした、細川沢子さんだった。
 ほぼ天頂から降りてくる、満月の光に照らされる沢子さんは、青白くて、どこか、現実感がない。その顔に浮かんでいるのは、生きている人間とは思えない、冷えた笑顔。
 沢子さんが、僕を見る。
「心さぁん」
 その声も、生きているものとは思えないほど、冷たい。
「私ねえ、あの人の……。誠吉さんの子ども、産むのぉ。あの人、死んじゃったけど、あの人の子ども、ここにあるからぁ」
 そして、両手にくるんだものを、自分の右の頬に当て、いとおしそうに、ほおずりをする。
「あれは……!」
 大きさは鶏卵程度だけど、夜目にもはっきりと見て取れる、金色に輝く卵。
「ヒラニヤーンダ……。どうして……」
 まだ、滅することが出来なかったのか……!
 いや、それより!
「沢子さん、それは……!」
「これは、懐胎秘法伝授之會で、授かった、あの人の子種。これがあれば……!」
 まるで生きていない笑顔を浮かべ、沢子さんが宙に浮かぶ。そして、そのまま夜空へ吸い込まれ……。
 その姿が見えなくなったところで、空間に亀裂が入り、砕けていった。
 とても静かで、そして。
 絶望に満ちた大空震だった。

 巻き戻ると、八月十三日、月曜日。僕は、図書館でうたた寝をしていたらしい。僕を起こしたのは、同じ帝都大学二部で学ぶ書生。
 そして。
 何気なく彼から聞いたけど。
 伊佐木誠吉は、前月、七月二十一日に、「人斬り魔」に斬られて死んだんだそうだ。

 本部へ帰ると、そろそろ月末になるから、ということで、副頭が寝ないで起きていて。副頭によると、「これまで『途中で死んだ』人も、九月一日から巻き戻ると、何事もなく存在していた」そうだ。「途中でいなくなる」ケースも、「引っ越した」ことになっていて、「死んだ」というのは、これまで報告例がない、という。
 いずれにしても、今夜、八月十四日の午後八時から、緊急会議を開くから、それまでに高谷さんに、そのことも占断してもらう、ってことだった。


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