「ヨロイ」も解除され、天夢が心のところに駆け寄る。 「救世さん!」 「天夢ちゃん。……確かに、勾玉の力で、ディザイアと闘っていると思うけど、そのベースになっているのは、その『人』の技術や、体、感性なんだ。わかったよね? 僕だって、あそこまでのことが出来たんだ。大丈夫! 天夢ちゃんは、充分、すごいから! もっと自信をもって!」 「救世さん……」 と、天夢がうっとりと、心を見つめる。 ああ、あれは、完全に恋する乙女の目だ。そっとしとこう、そう思いながら、ついつい、その先の言葉に聞き耳を立ててしまう。 「救世さん、あたし、救世さんが好きとかどうとか、そういうんじゃなくて。純粋に尊敬してます!」 「え? 尊敬、って、僕はそんな人間じゃあ……」 浅黄がニヤニヤとして言った。 「おいおい、ラブシーンは、よそでやってくれよ?」 心と天夢が、バツが悪そうに、ソワソワとし始めた。 それに、微笑ましいものを感じながら、千紗は辺りを見渡し、ふと。 「……あれは……」 ディザイアが消滅した辺りに、何かがある。近寄って、手に取ると。 「あの時の本か?」 かつて久津万里講社が出した、千紗が受けた「神の啓示」をしるした、和綴じ本だ。顕空のものは、ここには持ち込めない。だとすると、ディザイアの残骸か? あの「神の啓示」、最初の頃は、「人はいかに生きるべきか」という、人生訓だった。あとで比較対照してみたが、新約聖書の内容と共通する部分もあり、また、霊界との繋がりによって人生が変わる、いかに霊界と「交渉」するべきかという霊学に踏み込んだところもあった。だが、おそらく「予備知識もなかったのに、聖書とも共通していた」と思って、千紗が天狗になった辺りから、その内容は「人類は堕落した」という色調を帯び始め、「終末預言」から「破滅預言」、そこからの「救済の御業」へと流れていった。 苦い思いで本を開く。 「……ん? これは……」 白紙だった。何枚かページをめくるが、どこも白紙。 これに何の意味が、と思ってめくり続けていたら、ラストページになった。そこには、一つの「言葉」があった。 千紗は、無意識にその言葉を口に出す。 「ごめんなさい」 言葉が終わると同時に、本が粒子になり、風に散らされるかのように消えた。 あの字は、活字ではなく、手書きのようだったが。 誰の字に似ていたろうか?
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