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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第251回   終結の部の十七
「第五のラッパが鳴ると、星が落ち、底知れぬ所の穴が開かれた。その穴から、イナゴが地上に現れた、か。どこまでも『黙示録』を気取るつもりか、美都?」
 そう呟き、千紗は間合いを取る。イナゴは、千紗を狙うようだが、心に邪魔され、こちらに来ることが出来ない。見ているに、やはり、心の格闘技術は優れていた。
 八卦陣を回転させる。そして。
「艮の柄!」
 心と、イナゴ、お互いが、格闘の末、間合いをとり、結界の「壁」を利用して、飛び蹴りを放つ。蹴り勝ったのは、心だ。こちらに飛ばされて来たイナゴに、艮……山の力を宿した刀をぶつける。崖崩れのような衝撃で、またイナゴは飛ばされ、そのまま「艮」もろともディザイアの頭部に激突して、そのラッパを砕いた。
 爆音と黒煙が収まったとき、別のラッパがこっちを向いていて、耳障りな音を立てた。
 そこから、炎の塊が現れる。まるで「墜ちてくる星」。
「たいまつのようにもえさかる星。第三のラッパか」
 次なる柄は、巽……風の刃だ。
 自在に舞う「星」をかわしながら、刀を振るい、突風を巻き起こす。それに翻弄され、「星」は宙を踊り、やがて、ディザイアの頭部にぶつかって、爆発した。それに乗じ、千紗は跳躍して、風の刃で斬りつけたが、またしてもディザイアの首を跳ね飛ばすには至らず。「星」を吐き出したラッパを、風の刃で切るだけだった。
 ディザイアの頭部が回り、次なるラッパが吹き鳴らされる。そこから、粒子が現れ、地上で、騎兵隊に変わった。その数は、まさにこの結界の中を埋め尽くさんばかりだ。
「救世!」
 その声だけで、心は理解し、千紗の前で盾になって、騎兵を、殴り飛ばし、蹴り飛ばしていく。その間に、千紗は意識を合わせ、次の柄を抜いた。
「坤の柄!」
 地の力を満たした「氣」の刃を地に突き刺す。地割れが起こり、騎兵隊を残らず呑み込んだ。呑み込まれた先は、結界と、外の世界との境。だが、この騎兵隊はディザイアそのものではなく、ディザイアに依存する存在。ディザイアを離れては、存在できない。さらに、「境目」の領域だから、結界そのものも、健在だ。刀を抜くと、地割れが元に戻る。騎兵隊がいなくなってうろたえてるかどうかまではわからないが、ディザイアは抵抗らしいものもせず、そのラッパは、心の跳び蹴りで砕かれた。
 頭部が回り、次のラッパから、太陽も星も隠すかのような黒煙が噴き出される。かく乱のつもりかも知れないが。
「離の柄!」
 炎の刃が、明るく輝き、闇を追い払った。そして、そのまま、今度こそ、脳天から斬り伏せる! だが、ラッパを斬ったところで、ディザイアの手が千紗をはらい飛ばした。宙で身をひねり、着地する。
 最後のラッパが向く。
「第七のラッパが吹き鳴らされると、一つのしるしが天に現れた。そこに大きな、赤い龍がいた。それには七つの頭があった」
 千紗の呟きに答えるように、ラッパから赤いガスが溢れ出し、一つの影となる。
 天夢の声がした。
「まさか、大淫婦!?」
 確かにあのシルエットは、これまで見てきた大淫婦に似ている。だが。
「あんなものは、粗悪な模造品だ」
 断言して、八卦陣を回転させ、柄を手に取る。
「震の柄!」
 抜き放つと、雷をはらんだ刀をむける。大淫婦の影が、七つの口から黒い炎を吐き出す。それを八卦の盾で防ぎ、千紗は踏み込んで跳躍した。雷を振り下ろす。まるでそれは「本物の天の裁きとは、そんなものではない」といわんばかりの雷撃となって、大淫婦の形をした影だけでなく、今度こそ、ディザイアの頭部を噴き飛ばした。
 着地し、どうにか姿を保っているディザイアを見上げ、千紗は言った。
「世界を滅ぼすのは、神ではない。神は、決してそのようなことは、なさらない。世界を滅ぼすのは」
 そして、残る「乾の柄」を抜く。
「いつの世も、人間自身だ!」
 澄んだ白光をまとった刀を両手で振りかざし、千紗は天高くジャンプした。気合いもろとも、刃を撃ち下ろす!
 電子音じみた女の絶叫とともに、ディザイアが爆発、消滅した。


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