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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第250回   終結の部の十六
「ラッパを吹く、黙示録の御使いのつもりか?」
「破滅」、それにともなう「救い」。それを象徴しているのだろう。はたして、その巨体の背中から、一対の灰色の翼が拡がった。
 そして、頭部がぐるり、と回り、一つの頭がこちらを向く。ディザイアが手でラッパを掴み、耳障りな音を鳴らすと、そのラッパから、噴火する山、とでもいいたくなるような、幾何学的なものが吐き出された。
 身構えたとき。
「Claimh−Solais(クラウ・ソラス)!」
 心の声がした。そして、浅黄が使うアタッキングツール「クラウ・ソラス」を剣気として両腕に纏わせた心が、背後から飛び出し、吐き出された炎の塊を斬り裂く。
 千紗も咒を唱えた。
「坎艮震巽離坤兌乾(カンゴンシンソンリコンダケン)。招来、八卦陣!」
 左腕の前腕部に、直径五十センチ程度の円形の光が、閃く。一瞬、円盾(サークルシールド)と思ったが。
「……八卦陣、いや、八握剣(やつかのつるぎ)か……」
 それは、正八角形をしていた。いつも使う「八卦陣」のようだが、それぞれの「角」から長さ二十センチほどの、刀の柄のようなものが伸びている。古図に見る「十種の神寶」の一つ、「八握剣」に似ていた。
 千紗が八卦陣に意識を合わせると、八卦陣が高速で回転する。千紗は次なる「咒」を唱えた。
「坎の柄!」
 八卦陣が停止した。そして、その時、手首の方を向いている柄を抜き放つ。
 坎、すなわち水の力に満ちた、一メートルほどの、青く光る「氣」の刀身が現れた。
 その刀を手に、千紗は跳躍し、こちらを向いているラッパを斬り落とす。
 すると、ディザイアの首が回り、別の頭がこちらを向く。手がラッパを掴み、何かを吐き出す。それは、炎を纏ったヒョウという、矛盾をはらんだものだった。炎の「ヒョウ」が、雨あられと、吐き出される。千紗は八卦陣の盾で、防ぎながら、間合いを取る。坎の刀は消えていた。
 一方、心は、体捌きでかわしているが、その動きは、どこかぎこちない。見ていて気がついた。どうやら、彼は「今、使える力も技も、勾玉の力」と思い込んでいるようだ。あくまで見た限りだが、彼は本当はもっと鋭い動きが出来るはずなのに、まるで「力の発動に任せている、あるいは頼っている」ように感じる。なので。
「救世、もっと自分の力を信じろ!」
 そう、叫んだ。
 その言葉に、立ち止まり、心は何かを考える。そして、ほとんど反射的、いや、先読みしたとしか思えない動きで、「ヒョウ」をかわし始めた。そして、適当に間合いを取り、天夢に向いて言った。
「天夢ちゃん、見てて!」
 そして身を翻し、飛んでくる「ヒョウ」を、腕の剣気で弾く。それがまるで、「千紗に襲いかかるものを、斬り伏せ、千紗に意識を集中する時間を与えている」ように見えた。
 なかなか、余裕かましたことをする、と、思いながら、千紗は八卦陣に意識を合わせる。八卦陣が回転した。
「兌の柄!」
 その声とともに陣が止まり、手首に向いた柄を抜き放つ。
「川の流れ」を宿した「氣」が刀身となっていた。その刀を手に、千紗は跳躍する。宙で身をひねり、刃をむける。川の流れさながらの「氣の流れ」が、飛んでくる「ヒョウ」を押し流し、千紗は刀でラッパを切った。着地し、そのままディザイアの首をはねようとしたが、それより早く、首が回り、別のラッパが向いた。そこから出てきたのは。
「千宝寺さん!」
 そんな声とともに、心が飛び込んできて、千紗を突き飛ばす。そして、そのまま現れた「モノ」と格闘を始めた。
 そこにいたのは、人と同じ大きさのバッタ、あるいはイナゴ。さらに、人とかわらないフォルムだったが、装甲の様なものをまとっている。


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