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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第248回   終結の部の十四
 天夢の表情が固まる。
「これは、あくまで、可能性の問題だ。だが、復活の前段階として、『卵』という段階を踏む、という可能性は考えられる。もしそうなら、ヤツは卵の中で力を蓄えていながら、前回、復活に失敗した。前回の卵は、五、六メートルほどあったという。今回は、あの大きさだ。それほどの力はないかも知れん。今回で、確実に潰す!」
 そう言って、千紗は座っている人たちの間を無理矢理、押し通る。
 踏み込んだ千紗の足音に、集まっていた衆目が集まる。そして、五、六メートルほど先で、女も見た。
 女……久積茉理が、挑発的な笑みを浮かべた。
「これはこれは、千紗様。いかがなさいました? あなた様も、この私に、救われに来ましたか? ……ええ、それなら、それでよろしくてよ? 私はあなたのように、人々を見捨てて、どこかへ逃げるようなことは致しません。すがるものは、ひとしく救います。それが、神に選ばれし者の、定め」
 その言葉にあるのは、「救う」という言葉とは裏腹の選民思想。選ばれし者が持つべきは、使命感と責任感であるのに、そこにあるのは、他者をおとしめる優越感。かつては自分もああだったのだ、と思うと、胸の中が苦さでいっぱいになる。
 説得など無意味だろうが、それでも言ってみる。
「美都。人を救うとお前は言うが、いったい、どうやって救う?」
「知れたこと。私を崇めれば、神の威光が降り注いで、その者は、何があろうと救われるのです。かつての、あなたが、そう言ったように!」
 そばで天夢が「え? 何言ってるんですか、あの人?」と聞いてきたが、それには答えず、千紗は言った。
「誰かに、……奇妙な女に、何か、言われたか?」
 もしかすると、太閤后か太閤妃にそそのかされたか。
 その言葉を鼻であしらい、美都は言った。
「そのような『誰か』など、いるはずないでしょう? 私を導くのは、神のみ! 神がこの卵をお授けになって、こう仰ったのです。『これは、神の宿る卵である。これをもって世人を救え』と!」
 そして、金色の卵を捧げ持つように、頭上に掲げる。それを見た人々が合掌し、頭を下げ、念仏とも祝詞ともつかない「何か」をブツブツと呟いていた。
 この光景は千紗自身にも覚えがある。かつて彼女も、同じようなことをした。千紗自身が受けた「神の啓示」が記された和綴じの薄っぺらい本を、頭上に掲げ、底の浅いことを、偉そうにぶち上げていた。
 汗顔の至り、どころではない。あれは、まさしく犯罪だった。今の彼女の中には、罪悪感と贖罪の思いしかない。
 自分があのようなことさえしなければ、集団自殺などという、狂気の事態は起きなかったのだ。
「あなたに、……救世者の使命を捨てたあなたに、邪魔はさせないわ!」
 そして、美都の姿が黒いガスに包まれ……。


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