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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第246回   終結の部の十二
 八月十三日。日曜日だけど、僕の気持ちは重かった。
 本当は、今日、爺ちゃんがあっちへ帰るから、見送りに行くべきだけど。
 申し訳ないけど、それは勘弁してもらった。十日ほどだったけど、爺ちゃんのトレーニングで、僕は、だいぶレベルアップできたと思う。もちろん、技術とか技が冴えてきた、っていうのじゃない。なんていうか、心構えっていうのかな? そういうのが、変わってきたように思う。
 でも。それでも、堪えてるんだ、昨夜のこと。
 僕がやったことは……。
「あーっ、もーっ!!」
 起き上がり、時計を見る。
 午前九時十五分。
 そう言えば、今日は、まだ朝食を食べてない。
 寝巻代わりのジャージー姿のまま、布団から起き上がり、台所へ行く。のろのろ、って感じでフライパンを出し、コンロの火をつける。フライパンが熱くなる頃に、油をしき、冷凍庫から出しておいた、切った野菜や、パッキングされたコーン・グリンピースといった野菜を放り込む。熱が通った頃に、塩とコショウを振る。
 本当なら、ご飯も一緒に、だけど。
 今日は、この野菜炒めとインスタントコーヒーだけで、朝食を終えた。

 このまま、ウジュウジュしてても、仕方ないけど。
 でも、そう簡単に切り替えできるってものでもない。
 僕は、なんとなく、テーブルの上に上を置き、ペンでいろいろ、関係者の名前を書き始めた。
 今朝、爺ちゃんに断りの電話を入れたときに、副頭からメールが来てたのに気づいたんだ。それには「ムラマサの探索は、しばらく中断」とあった。詳しいことまでは触れてなかったけど、どうやら「ムラマサの探索は、思ったよりも難しい」みたいな内容だった。
 僕の中では、正力さんがムラマサなんだけど、ひょっとしたら、違ったのかも知れない。
 とりあえず、適当に名前をいじる、何かしていないと、沈み込む一方のような気がするんだ。
「えっと。正力、正は『マサ』とも読むから、武良……ムラと合わせて『ムラマサ』、なんだけどなあ」
 こんな風に、社長さんとか、色んな人の名前を、読み方を変えたり、組み替えたり、アナグラムにしてみる。そして、ふと、ある人の名前をいじり直したとき。
「……え? ちょっと、待って?」
 僕の鼓動が早鐘を打ち始める。
「……どういうことだ、これ? 偶然? ……にしては、似てる……」
 少し、考えて、僕は、天夢ちゃんに電話した。天夢ちゃんはムラマサと実際に剣を交えている。そんな報告書が、メールで回ってきた。
「もしもし、天夢ちゃん? ごめんね、日曜の朝に。今、いいかな? ……実は、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……。ムラマサの剣っていうか、そのスキル、どのレベルかな……? 例えば、達人とか、初級者とか、せいぜい一日か二日、体験入部とかで剣道をかじった程度、とか?」

 電話を終え、僕は、「変換」した名前を見る。
「そうか、だから、『ムラマサ』だったのか……。多分、間違いない……」
 どうして「あの人」が「ムラマサ」になったのか、それはわからないけど。
 一度、話をしてみてもいいかも知れない。


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