澄んだ金属音が響いて、男が跳びのく気配があった。 見ると、防犯灯の明かりに照らされた、太刀を手にした姿。クリムゾンのシャツに、赤と青のオーバーチェックが入った、白いプリーツスカート、黒いオーバーニーソックス。 「大丈夫かい、佐之尾さん?」 振り向いた顔は、白倉新だった。 この娘は、いろいろと「とんでもない」が、今日は力強く感じる。 「お前、どうして、ここに?」 力強くはあったが、その疑問が浮かんだ。彼女が住んでいるのは、上賀根市。おまけに、こんな時間だ。通りがかった、というわけではないだろう。 「江崎さんから連絡があったんだ。救世くんが、『佐之尾さんの名刺を、帝星建設に落としてくる』って。あそこには、ムラマサかも知れない奴がいる。もしかすると、佐之尾さんに危機が迫るかも知れない。それが江崎さんの狙いだろうけど。だから、不本意だったけど、キヨカちゃんに、佐之尾さんについても、占ってもらったんだ、ついでにね」 「俺は、ついでかよ……」 新は、占法士・高谷清嘉(たかや さやか)のことを「キヨカちゃん」と呼んでいるが。その話は、江崎から聞いた。「もしかすると、江崎を介さず、ダイレクトに佐之尾に接触するかも知れないから、用心して欲しい」ということだった。 この白倉新という娘は、なかなかに豪快な性格をしている。護世士の女性メンバーに危機が迫っていないか、占法士の高谷清嘉に占わせているのだ。男性メンバーは「どうでもいい」そうで、新はそれを悪びれもせず、公言している。 「それに『正力武良』という社員が、なんだかあやしい、っていう報告があったし、ボクもそれとなく観察して、妙な『気』を感じたからね。佐之尾さんがこっちに来るのを知って……」 「……どうやって、知った?」 「ボクにも、キヨカちゃんほど透徹してはいないけど、占いの技術はあるんだよ?」 そうだった。十日程度らしいが、ある程度、先の動きを読む力を、新は持っている。百パーセントの的中率ではなく、(本人曰く)せいぜい三割程度らしいが。 「それで、今日、『動く』のがわかったんで、帝星建設の前で、張ってたんだ、正力武良をね」 「……刑事か、お前は?」 突っ込むと、新は笑った。 「本当は佐之尾さんの方にしようか、とも思ったんだけど、ずっと警察署の付近にいると、変に思われる。帝星建設の方なら、近くに遊べるスポットもあるから、不自然じゃないしね」 よくわからないが、今日、正力武良が動くか、あるいは、佐之尾に危機が迫るかを察知し、先読みした、ということか? 「この程度の結界も、ボクにとっては、ないも同然。っていうか、いかにも『ここに結界があります』といわんばかりに、力場が歪んでるし。これ、多分、『施術』したんじゃなく、アイテムのようなものを設置してるだけじゃないかな?」
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