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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第241回   終結の部の七
「いろいろすまない。本家の皆様には、迷惑ばかりかけて、申し訳なく思う」
『気にすることはないよ。代々、久津万里神社の宮司の家である、千宝寺家は、白倉の門流だからね。きちんと指導しないとならなかった。……って、ボクが言うことじゃないけど、おそらく師母……お母様も同じことを言うと思うよ?』
「しかし、私が『神の啓示』などというものを受けなければ、『久津万里講社』などという、宗教団体紛いのものはできなかった」
 胸にあるのは後悔のみ。「神の啓示」を受け、自分は神に選ばれたと思った。それが思い上がりとなり、千紗自身、天狗となった。そして、祖母が主唱して、「久津万里講社」なる団体が出来た。最初は、普通に宗教の勉強会だったはずだった。だが、やがて啓示の内容が「破滅預言」の様相を呈し、それに便乗する形で「救いの御業」「救われるためのアイテム」の「販売」にシフトしていった。
 この辺りから、千紗もおかしいと思うようになった。その頃、白倉本家で修行していた白倉琉那(はくら るな)……新の姉から、「本家に来い」という指示が来た。千紗の家と白倉本家とは、電車で三十分、駅から車でさらに三十分、山を登った距離関係だ。
 そして、本家へ行き、千紗が天狗になったことにより、かかってくる存在が邪霊になってしまっていたことを知った。
 祖母に伝えたが、祖母はそれを否定し、あるいは黙殺した。講社は変わらず、人の心を呑み込み、膨れ始めていた。
 そこで千紗は出奔し、上石津市へ逃げた。今から四年半前のことだ。それから、三、四ヶ月した頃、「あの事件」を報道で知り、千紗は大正十二年界へと行くことになった。
 その後、テイボウに加入し、白倉新と知り合った。新は才能と資質を見込まれ、武者修行のような形で、小学五年の九月に、テイボウに入れられたそうだ。
 そして、新を通じ、講社が一時、なりを潜めたものの、千紗の従姉妹の千宝寺美都を新たな「頭」に据えて、盛り返したことを知った。
『千紗姉様。「あの時」のような事件は起きていないし、おそらく起きないと思うよ? そもそも詐欺として告発されたってことは、講に入った人たちも、どこか冷静だったって事だ。「あの時」のように……』
 その先は新は言わなかった。新の、気配りであることが伝わる。
「すまんな。だが、私が、あんな無責任な『啓示』を垂れ流したせいで、そして、私が姿を消したことで、絶望し命を絶とうとした人たちが、何人かいた事実は消せない」
 しばらく心に痛い、沈黙が流れる。
 やがて、新が言った。
『美都さんは、今、意識不明らしい。でも、ディザイアになるとしても、今日明日のことじゃないと思う』
「……なぜ、そう思う?」
『おそらく、今の彼女にあるのは、自己保身、自己憐憫、そんなものなんじゃないかな? 「何かをしたい」という欲念より、とにかく逃げたい、という気持ちの方が勝(まさ)っていると思う。だけど、これが落ち着くと、「形勢逆転したい」という欲念が生まれる可能性がある』
「……そうか」
 猿太閤という、おそらくラスボスがいるというのに、さらにまたディザイアが生まれるなど、御免被りたい。
 そう思いながら、千紗は新との電話を終えた。
 そして、その夜、千紗は大正十二年界へと赴き、那川斉士と再会した。


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