顕空での翌日、つまり七月八日土曜日の午後八時。 僕、浅黄さん、紫雲英ちゃん、梓川さんは、本部にいた。江崎副頭がホワイトボードに「迫水法螺無」と板書する。 「非常に変則的ではあったんですが」 と、十センチ角程度の大きなマグネットシールを、何枚もボードに貼りつける。一枚一枚にアルファベットが一字ずつ書いてあって、「SAKOMIZU HOURAMU」となっていた。 「連絡を受けたとき、やっぱり気になったんです。意識不明者の二人、無関係ではありませんでしたし、冥空裏界でも、合崎と迫水両名、何らかの繋がりがあるようですし。なので、もしやと思い、アナグラムだと解釈してみました」 そして、マグネットシールを並べ替える。 「MURASHIMA KOUZOU」となった。 「迫水法螺無は、村嶋康造氏です」 副頭が強い口調で言った。 「じゃあ」 と、浅黄さんが厳しい目つきで言った。 「山精は、あの教会に逃げ込んだのか。……ぬかったぜ」 そのあとを、呆れたような口調で梓川さんが続ける。 「『法螺(ホラ)が無い』ってこと自体が、大法螺じゃない」 紫雲英ちゃんが言った。 「今度、あっちに行ったら、問答無用で、踏み込んでもいいッてことですね?」 苦笑いを浮かべて、副頭が答える。 「その言い方には語弊がありますが、ある程度、強権を発動してもいいでしょう」 結論は。 「迫水法羅無をディザイアと認定する」だった。 呪符が反応すれば、という、ただし書き付きだけど。
そして、その夜のうちに冥空裏界へ行った。 八月二十八日火曜日の、午後四時半だった。 もう、本当にどうなっているのか、わからない。 僕は、家を出て、例の教会へ行ってみたんだけど。 「……どうなってるんだ?」 そこは、更地になっていた。建物を解体した痕跡もない、本当にただの空き地。それとなく、その近所の人たちに聞いてみたけど、そこはずっと空き地だったっていう。さりげなく「天空化神教」の名前を出してみたけど、無反応だった。 「本当に、どうなってるんだ?」 訳がわからない。首を傾げながら、うんうん唸っていると。 「救世さん」 「天夢ちゃん」 女学生姿の天夢ちゃんが、いた。 「教会が消えてるんだ。それだけじゃない、誰も化神教の事を知らなくて」 僕が言うと、天夢ちゃんが言った。 「おそらく、『なかったこと』にされたんだと思います」 「え? どういうこと?」 天夢ちゃんが、空き地を見ながら、言う。 「あたしも、詳しくは知らないんですけど。ディザイアによっては、何らかの事情で、一時的に『撤収』するんだそうです。その際、その痕跡をなかったことにするらしいんです」
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