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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第239回   終結の部の五
 文山たちや、応援でやってきた上石津署の女性警官たちに大田原溢美のことを任せ、佐之尾は帝星建設に残った。ついで、というわけではないが、阿良川についても、調べておこうと思ったのだ。簡単に聞いた阿良川の特徴は、あくまで体格的なものだが、「合い鍵」を作りに来た男と、似ているような気がする。
 もちろん、その男が事件に関わりがあるかどうか、など、確実なものはない。それ以前に、津島の家に、何者かが侵入したということも、確証があるわけではない。
 しかし、もし、溢美が津島殺害に関わっていたとしたら?
 はたして、単独犯だろうか? まだ、聴取さえしていないから一切は不明だが、溢美に、津島を殺害する、そこまでの動機があるとは思えない。今後の捜査によっては、もしかしたら溢美の動機が見つかる可能性もあるが、現段階では、溢美個人に殺害動機はないと判断する。
 それに、この事件は、土原議員と帝星建設の癒着が、根っこにある。そうなると、帝星建設のダーティーワークをこなしていると思しき阿良川、何らかの形で津島殺しに関わっていると考えるべきだろう。
 そう考え、まずは五階にある総務部へ行くことにした。俗にいう「コネ入社」かも知れないが、だとしても、おおよそのことはわかるはずだ。同じフロアに人事部もあるそうだから、そこでも話が聞けるだろう。
 そう思って、階段へ向かったとき。廊下の向こうから、一組の男女が歩いてくる。おそらく階段室から来たのだろう。その二人を見たとき、佐之尾の背筋を、冷たいものが走った。
 女の方は、身長は百六十五センチ程度。黒いスーツ姿だ。髪の長さは、おそらく背中の中ほど。美しい女だが、その美しさは、この世の……いや、この世にあってはならないタイプのものに思えた。
 もう一人は長身の青年。二十代後半か、三十初めといったところか。だが、この男も、異様な気を纏っている。
 どちらも、この世にありながらこの世にいないような感じだ。佐之尾の、テイボウの主頭としての感覚、経験が、「この二人は危険だ」と、いっている。
 二人はこちらに近づき、すれ違いざま、会釈して行った。その時、女の方は白の勾玉と黒の勾玉が互い違いに組み合わさった太極図を、モチーフにしたネックレス、耳飾りをつけているのが見えた。
 男の方は、首から提げた社員証が見えた。
「営業部営業二課 正力武良」
 報告書にあった「要注意」という男だ。
 振り返ると、向こうも立ち止まってこちらを見ていた。それはまるで、こちらを注視しているように思えたが、二人は取り繕うでもなく、もう一度、会釈し、去って行った。その直前、女の方が薄い笑いを口に浮かべたように見えた。


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