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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第238回   終結の部の四
 収穫あり、だ。
 八月十日。佐之尾は、帝星建設に赴き、大田原溢美に会って、話を聞いた。
 場所は、四階にある、小規模の会議室の一つ。時刻は午後二時頃だ。
 最初は、空とぼけていた風だったが、レンタカーと、レンタカーを借りた際に提示した、運転免許証の写し、喫茶店の店主によるレンタカーの目撃談の話になったら、中埜石市の緑四先に行ったことをみとめた。
「なぜ、先ほど、『覚えがない』などと?」
 相手の表情、手の動きに注意しながら、佐之尾は尋ねる。おそらく帯同した文山も、同じだろう。二人の目で見れば、確実なものが得られる、
「それは。……その日は、病気休暇をとっていましたので。もし、療養せず、中埜石の隠れ家スポットに行っていた、なんてわかると、私にも立場というものがありますから」
 とりあえず、筋は通る。
 では、次だ。
「なぜ、津島行延氏に、お会いに?」
 喫茶店で津島と会っていたことは、認めた。店主が溢美の写真を見て「似ている」と言ったのだ。また、例の、溢美が道を尋ねた民家の主人も「似ているような気がする」と答えた。
 もちろん、これだけだと弱い。「他人の空似」だと言い逃れしようと思えば、いくらでもできる。
 だから、徹底して調べたのだ。そうしたら、出てきたのだ、津島のパソコンから、溢美の画像データが。最初は、取材時に撮ったスナップの一つだと思われた。事実、ほかにも多くの写真があった。気をつけなければ、見落としていただろう。だが、隠し撮りのようであったこと、他の写真データとの前後関係から考えて、その写真は、津島が女と会っていた日時と一致すると思われること、また、写り込んでいる背景から見て、例の喫茶店であることもわかった。
 骨格・目鼻の位置的に溢美と、ほぼ一致することもわかり、それを示したら、認めたのだ。
「声をかけられて。一緒にお茶しただけです」
「ほう? その程度で、写真撮影、それも隠し撮り、ですか?」
「ストーカーだったとか、その手の趣味があったんじゃないですか?」
 やや、投げやりな言い方になっていた。
「津島さん、あるネタを追いかけてましてね。それに関連して、こちらの社員さんと、会っていた形跡があるんですよ」
「……それが? それが、私と、なんか関係があるんですか?」
 あくまでシラを切るつもりらしい。
 しばらく溢美を見る。落ち着いているように見えるが、こちらと目を合わせようとしない。ヤケになっているように見えるが、おそらく内面の動揺を隠すので必死なのだろう。だから、「愛想良く」だとか「普段のような態度」がとれないのだと思う。もう少し粘れば、余裕をなくして、イラついてくるのではないか?
 黒とまではいかないが、灰色なのは、間違いない。
「それでは、次にお尋ねしたいんですが」
「まだ、何か!?」
 明らかに不機嫌になってきている。早くこの時間を終わらせたくてたまらない。そう思っているのが、見え見えだ。
「申し訳ありませんね、被害者と関係のあった人は、それがナンパ程度だったとしても、徹底的に調べるのが、警察っていうところなんですよ」
 ニヤリとして佐之尾がそう言ったとき、会議室のドアが開いて、片岡ともう一人の刑事が入ってきた。そして、文山を呼び、なにか、耳打ちする。それに頷き、今度は文山が佐之尾に耳打ちした。
「事件の二、三日前、パソコンに残っていた写真と同じ写真を持って、『ここに、田中ひよこ、という社員はいるか』と、聞いて回っていた男がいたそうです。風邪をこじらせた、とかで、頻繁に鼻をかんでいたそうで、印象に残っていたらしいです。津島とよく似ていたそうです」
 それに頷き、佐之尾は言った。
「申し訳ありませんね、大田原さん。あなたには、ちょっと詳しくお話を聞く必要が出てきてしまいました。上石津署へ、同行願えますか? 女性警官を手配しますので」
 溢美の表情が強ばるのがわかった。


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