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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第236回   終結の部の二
 言葉にしたのは純佳だ。
「まさか、議員の周辺に犯人がいるってことですか?」
「そこまでは言いませんが」
 と、佐之尾は言ったが、ここまで言う以上、そう言っているも同然だ。
 国見が、やや困ったような笑みを浮かべて言った。
「帝星建設には、阿良川夏彦という、反社にいた男がいます。所属部署は、というか社長の『運転手』なんですが。あそこ、去年、殺人事件があって、いろいろ調べたことがあるんですが、実は、容疑者として浮上したことがあるんですよ。動機がなく、アリバイがあったので、早々に消えましたが」
 佐之尾が意味ありげに笑う。
「疑うからには、何か、やってたんですね?」
 国見は頷く。
「去年の春頃、取引企業と、もめたことがあるんです、帝星建設って。その際、それを『恫喝』で収めたフシがあるんですよ。で、その時、動いたのが」
「アラカワってヤツだった」
 国見は頷く。
「物的証拠もないし、何より、相手方が告訴しなかったんで、こちらとしてはどうにも動けなかったんですが。あの分では、以前から、同じようなことをやっているはずですし、今もやっているはずです」
 佐之尾がちょっと考える。
「今回の事件、その男が関わっている、と見るのは、早計ですが、土原が動いたとなると、ある程度『トップ』にいる人間が、関係しているとみるべきでしょうね」
 国見も純佳も頷いた。
「まあ、捜査には支障がないようにします。ところで、近いうちに、また、そちらに伺うことになると思います」
 純佳が首を傾げた。
「なにかあったんですか?」
「先月、お世話になったジャーナリスト殺しの件なんですが。ちょっと、面白いことが分かりましてね」
「面白いこと?」
「ええ。津島の事務所や自宅は、市の西部、『通(とおり)』というところにあるんですが、奴(やっこ)さん、市の東南部の『緑四先(みどりしのざき)』にある喫茶店で、女と会ってることが分かりましてね」
 国見は、中埜石市の地理を把握しているわけではない。なので、率直に聞いてみた。
「そのトオリ、っていうところと、ミドリシノザキっていうところ、離れてるんですか?」
「そうですね。位置的には、ほぼ端と端なんで、車だと三、四十分は見ないと。それ以前に、緑四先は中心街区ではないので、道が入り組んでいたりするんです」
 その喫茶店は、県内の情報誌で「隠れ家スポット」として紹介されたことがあるそうで、津島がそこを訪れたとしても不思議はないが。
「とにかく、津島の足取りを徹底的に調べていたら、その喫茶店の店主から情報提供がありましてね。聞いてみたら、六月頃から何度か、そこで女と会っていたそうなんです。で、周辺で聞き込みやローラーをかけたら、ヒットしましたよ」
 その女は「わ」ナンバー、いわゆるレンタカーに乗っていたそうだが、道に不案内だったらしく、ある民家で道を尋ねていた。その車は、その家を去るとき、近くの車道の縁石を乗り越えており(道幅が狭かったそうで、転回に失敗したらしい)、その家の住人が、そこから抜け出すのを手伝っていた。そんなことがあったから、ナンバーも女のことも記憶していた。さらに、例の喫茶店のマスターも、店の駐車場に停まっていた「わ」ナンバーの車に、その女が乗降するところを見ていた。「わ」ナンバーの車が来るのは初めてだったので、印象に残っていたそうだ。
「そのナンバーと日付から、一人の女が浮かびました。大田原溢美(おおたわら いつみ)。帝星建設の、経理部に勤めてます」
 国見は純佳と顔を見合わせる。そして、思わず、言った。
「去年の殺人事件といい、横領事件といい、そちらのジャーナリスト殺しといい、今回のこちらの事件といい。いったい、何が起きてるんですかね、帝星建設で?」
「まあ、こんなもんですよ」
 と、佐之尾は肩をすくめた。

 佐之尾が溢美を疑う理由は、他にもある。
 例えば。
 奥坂が死んだという連絡を受け、こちらで家宅捜索を行った。その時、手紙の「本当の二枚目」、ノートパソコンが見つかったが、検証してみると、パソコンは津島のものであることがわかった。中のデータの中に、ある「映像」があったが。
「あれ? ちょっと待ってください?」
 と、映像を見ていた文山が首を傾げた。
「どうかしましたか、ブンさん?」
 佐之尾の言葉に、片岡に、映像に一時停止をかけさせ、文山は画面を見る。そして。
「この場所、見たことがあります」
「え?」
 文山の言葉に佐之尾は聞いた。もしかしたら、事件のヒントになるかも知れない。
「どこですか、ここ?」
「奥坂の尾行をしているときに、『緑四先』あるいは『四先(しのざき)』方面に行ったんです。結局、入り組んだ道に入られて、見失ってしまったんですが。そこからの帰り、これに似た景色を見ました。……確認してみます」
 さらに、まだある。
 事件が起きる一、二週間前、例の喫茶店でのこと。溢美は、津島にグレープフルーツジュースを勧めたが、津島はそれを断った。なんでも、「服用している薬の関係で、グレープフルーツは禁止だ」という。珍しい話だったので、店主も記憶していたそうだ。
「溢美は、津島がグレープフルーツを避けているのを知っていた。となると……」
 佐之尾の中には、一つの推理が形となっていた。
 そして、上石津署で抱えている事件。殺人事件だというが、こちらの事件と無関係とは思えない。
 どうやら、大きな事件となりそうだ。


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