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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第234回   拾の二十
 僕は思わず、白倉さんを見た。
「救世くん。お役を果たすんだ。副頭たちが、顕空でこの力を作ってくれた。だから、ここで『使える』んだ!」
 その神妙で、覚悟した表情。僕にも、その意味がわかった。でも。
「これを使うっていうことは……!」
 僕が言うと、白倉さんは一瞬だけ沈痛な表情になったけど、厳しい表情になって言った。
「これがボクたちの、今、するべき事なんだよ?」
 彼女の矢からも、僕の咒符とは違うけど、同じような邪悪な力を感じた。
 しばらく間があいたと思う。僕はヒラニヤーンダに向いた。黒い影の武士たちは、何があったか、その場に留まっている。それは、僕たちを警戒しているようでも、攻撃からヒラニヤーンダを護る「壁」になろうとしているようにも見えるけど、本当のところはわからない。
 僕は勾玉の中に現れた咒符の名前を言葉にして、有効にする。
「堕胎符(だたいふ)」
 勾玉が光を放つ。でも、それは禍々しい光。見ていると、吐き気すら覚える、邪悪なもの。
 それを右手甲にはめる。そして、僕は青空に向かって叫んだ。
 否。
 吠えた。
 力の限り、命の限り。喉が焼け、胸が張り裂けるほど、叫んだ。
 涙が止まらない。
 傍で、白倉さんが呪文を唱えた。
「阿山大佑の名において、命ずる。阿山花果、汝は……」
 白倉さんの声が詰まった。少し置いて再開された白倉さんの言葉は、明らかに涙声だった。
「汝は、何をおいても、生きよ!!」
 僕が徹甲拳を放つ横で、白倉さんが矢を放った。
 黄金の卵が、邪悪な光に包まれ、爆ぜる。黒い影も消える。
 そして、周囲、いや、この世界そのものから慟哭の声が聞こえてくる。
 冷たい雨が降り始め、あっという間に土砂降りになった。
 僕が大正十二年界に来るようになって、初めての雨だった。


(拾「命、その重さと軽さと」・了)


あとがき

 申し訳ないけれど。

・那川斉士……宮川一朗太氏

 ……。
 本当に申し訳ない!

 あと、那川が言ってた「介護は綺麗事じゃない」っていう部分。

 実際は、あんな程度のもんじゃないからね?


「拾の十二」で出てきた心のセリフ「この太西村(おおにしむら)……か、たさいむら」ですが。ご存じのことと思いますが、あれは大正十年に発足した「西多摩郡多西村」をもじったものです。

「拾の十九」で呪符が出現したシステムについて。この手のことに詳しい方ならお分かりと思いますが。ある種の「咒」を唱える、呪符を燃やす、などの儀式で、幽界・霊界に「何か」を届ける、というものがあります。その儀式を顕空で行った、ということです。ただし、これによって「結界用の呪符・アイテム」などは送れないことにしてます。お分かりと思いますが、その時点で行(い)っている誰かに送っても、その誰かが大正十二年界にいる間に呪符を使えるかはわからないし、そもそも誰が行くかわからないし。
 なお、誰が儀式を行(おこな)ったかは、最後の最後でわかる仕組みになってます。
 あと、ディザイア判定用の呪符は、「大正十二年界の意志」が結晶化したものです。


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