あのディザイアが、危険なものだというのは、すぐにわかった。 八月十二日の午後十一時だったんだ、顕空では。冥空では八月二十一日火曜日の午後二時。 目の前にいるのは、高さが五メートルほどの、金色に輝く鶏卵。あれは、多分、ヒラニヤーンダだ。ヒラニヤーンダっていうのは、ヒンドゥーで伝えられる「黄金の卵」のこと。一部の神話で「世界の始まりにあった卵」とされてる。 それが正しいかどうかはわからないけど、あの卵から、黒い影のような武士がたくさん生まれて、暴れてるんだ。卵を護っているのかどうか、わからないけど。武士たちは、人々に襲いかかり、刀で斬り捨てる。そして、斬られた中に。 伊佐木もいた。 僕が駆けつけたとき、すでに貴織さんと紫雲英ちゃんが到着していて。「阿山果花」っていう人がディザイアだっていうのを暴いたのは、貴織さんだったそうだ。「懐胎秘法伝授之會」が利用していた講堂の跡地(講堂そのものが消えていたらしい)に現れた女性がいて、その女性がディザイアだったんだそうだ。そのディザイアは、貴織さんと顔見知りだったらしい。 そして、あの黄金の卵になったところで僕が駆けつけ、武士がたくさん出現して、人々を斬り始めた……。
「塞神招請!」 僕が来るのを待っていたわけじゃないそうだけど、僕が来たタイミングで、貴織さんが結界を張った。勾玉も太極図もまだ現れてないけど、この惨劇を防ぐためには、結界を張るしかない! 幸いというかなんというか、武士たちも結界の中に閉じ込められて、これ以上、人々を斬ることはない。ただ。 貴織さんが呟いた。 「どうするか、よね、この状況……」 二十人ほどの武士たちは、僕たちを取り囲んでいる。その距離、およそ七、八メートル程度。そして、じわじわと迫ってくる。 勾玉が降りてくる気配はない。 僕の額から、イヤな汗が頬に伝っていったとき。 結界が、緩む気配があった。
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