20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第232回   拾の十八
 あのディザイアが、危険なものだというのは、すぐにわかった。
 八月十二日の午後十一時だったんだ、顕空では。冥空では八月二十一日火曜日の午後二時。
 目の前にいるのは、高さが五メートルほどの、金色に輝く鶏卵。あれは、多分、ヒラニヤーンダだ。ヒラニヤーンダっていうのは、ヒンドゥーで伝えられる「黄金の卵」のこと。一部の神話で「世界の始まりにあった卵」とされてる。
 それが正しいかどうかはわからないけど、あの卵から、黒い影のような武士がたくさん生まれて、暴れてるんだ。卵を護っているのかどうか、わからないけど。武士たちは、人々に襲いかかり、刀で斬り捨てる。そして、斬られた中に。
 伊佐木もいた。
 僕が駆けつけたとき、すでに貴織さんと紫雲英ちゃんが到着していて。「阿山果花」っていう人がディザイアだっていうのを暴いたのは、貴織さんだったそうだ。「懐胎秘法伝授之會」が利用していた講堂の跡地(講堂そのものが消えていたらしい)に現れた女性がいて、その女性がディザイアだったんだそうだ。そのディザイアは、貴織さんと顔見知りだったらしい。
 そして、あの黄金の卵になったところで僕が駆けつけ、武士がたくさん出現して、人々を斬り始めた……。

「塞神招請!」
 僕が来るのを待っていたわけじゃないそうだけど、僕が来たタイミングで、貴織さんが結界を張った。勾玉も太極図もまだ現れてないけど、この惨劇を防ぐためには、結界を張るしかない!
 幸いというかなんというか、武士たちも結界の中に閉じ込められて、これ以上、人々を斬ることはない。ただ。
 貴織さんが呟いた。
「どうするか、よね、この状況……」
 二十人ほどの武士たちは、僕たちを取り囲んでいる。その距離、およそ七、八メートル程度。そして、じわじわと迫ってくる。
 勾玉が降りてくる気配はない。
 僕の額から、イヤな汗が頬に伝っていったとき。
 結界が、緩む気配があった。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 2598