十二日、土曜日の夜。 前もって連絡し、結城は江崎とともに、中埜石市にある阿山大佑の自宅マンションに来ていた。テイボウに所属していたのは、実質的に三年間。その間、一時期だが、阿山は上石津市の西北部、野々見西のアパートを借りていた。テイボウと仕事、プライベートとの兼ね合いを考えたら、この位置が一番いいという判断だったそうだが、そこに住むことは、仕事にとってもプライベートにとっても、かなりの負担になったはずだ。野々見西から、芯岳のテイボウ本部があるところまで、車で三十分は、かかる。 つまりは、それだけテイボウの任務に、強い使命感を抱いている、ということ。 だからこそ、ここにこうして来た、ということなのだろうが。 「お久しぶりですね、江崎さん」 午後八時という遅い時間にもかかわらず、阿山は笑顔で結城たちを迎え入れた。 リビングには、トロフィーや、盾が飾ってある。どちらも高校時代、彼が高校時代に達成した、とある企業開催の全国大会で「MVP」に輝いた時のものだ。賞状の額も、二つほどあった。一つは、その大会でのもの、もう一つは、高校からもらったもの。 江崎がそれを見て言った。 「まだ、野球、続けてるんですか?」 「いや、もう。草野球からさえ、離れてますよ」 と、阿山は、目を伏せる。 「俺がやったことは、刑事罰に問われることじゃない。実際に人を殺したわけでもない。でも、一人の人間の『選手生命』を断ってしまったことは事実。ライバル校の主力を、おとしめるようなことをして、大会に出られないようにしたのは、事実なんです。それがきっかけとなって、その人物は野球に携われなくなって、自暴自棄になって……。高校を卒業して、十五年以上も経ってから、そのことを知って……」 その時の後悔は、彼にとって、計り知れないものだったのだろう。だからこそ、彼は大正十二年界へ行き、その過去をなかったことにする……いや、決して忘れぬように、とでもいわれているかのように、「ボール」と「グローブ」を護世具として使う、護世士となった。 「ところで」 と、空気を変えるように、顔を上げ、無理矢理、明るい声を出したかのように、阿山は言った。 「今日は、どうしたんですか? 電話じゃあ、込み入ってて話せない、みたいな話でしたけど?」 床に正座で座り、江崎はおもむろに言った。 「奥さん……花果さん、今、意識不明なんだって?」 阿山がちょっと驚き、次に怪訝な顔になって言った。 「どこで、それを?」 それには結城が答えた。 「『リスト』を調べて……」 結城が、意識不明者のリストを手に入れて、それを元にディザイアの元になったと思われる人物を探る。阿山がまだテイボウに所属しており、江崎が副頭として迎え入れられ、結城が加入したときに、そのようなシステムが導入された。 「そうですか。その中にありましたか、花果の名前が。ええ。四日前から意識がなくて。十日……木曜日の午前中に、一度、目を覚ましたらしいんですけど、また……」 結城は江崎を見る。江崎は頷いて言った。 「阿山さん、心を静めて、落ち着いて聞いてください。今、大正十二年界にディザイアが出現していますが、そのディザイアの名前、『あやま かのか』といいます」 阿山の表情が強ばった。江崎は続ける。 「昨夜、千宝寺くんが確認しました。……間違いなく、『阿山花果』さんだったそうです……」
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