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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第23回   壱の二十一
 山精が逃げているのは、やはり自分たちが敵だとわかるからだろう。紫雲英は、左の袂(たもと)から一挺の拳銃を取り出す。個人的には、「バントライン」と呼びたかったが、なぜか銃の方が「白縫(しらぬい)」と呼ばれたがっているのを感じたので、「白縫」と呼んでいる。ブレイク・オープンのリボルバー、スコフィールドタイプだ。
 やはり、リボルバーはロマンだと思う。確かに銃弾のリロードのことを考えたら、オートマチックの方がいいのだろうが、そういう問題ではない。
「でも、M五〇〇は、いただけないッス」
 そう呟き、銃弾を一つ、装填する。立ち止まり、呪文を唱えた。
「五帝神将(ごていしんしょう)、縛鬼伏邪(ばっきふくじゃ)、塞神招請(そくしんしょうせい)」
 そして、空に向けて、引き金を引く。弾丸は、空間に命中し、その空間を割った。
 ガラスが割れるような音とともに、空間にヒビが入る。そして、空が、建物が、地面が割れていく。そして、代わりに青空のような空間が広がる。ただし、空は空として、地面は地面として存在する。空中に見えて、実は、地に足を着けている事に変わりない。
 つまりは、ある種の遮蔽空間、結界である。
 もっとも、その範囲は、今の紫雲英の実力では四十尺(約十二メートル)四方、高さも四十尺(約十二メートル)程度。おまけに脆弱だった。
 だが、それでも、山精は立ち止まる。
 同じく立ち止まった浅黄が手を天にかざし、武器召喚のキーワードを唱えた。
「Tar(来い)、Claimh−Solais(クラウ・ソラス)!」
 二度三度、虹色の光が、浅黄の掌で閃く。そして、その手に現れたのは、二メートルはあろうかというトゥヴァイハンダー。刃は、赤く輝いている。
 浅黄が、剣を振り上げ、踏み込む。それを避ける山精だったが、結界に阻まれ、バウンドした。そこを狙って、剣を横薙ぎにする。確実にその胴を捉えたと思ったが、器用に体をヒネり、刃の直撃は防いだらしい。それでも、体の一部に刃が食い込んだらしい、何か、黒い粒子のようなものが、山精の胴から、噴出した。
 苦鳴とも咆哮ともつかない声を上げ、山精が空に逃げる。浅黄が氣合いもろとも、剣を突き上げる。検圧が迸り、山精を貫いた。
 声もなく、墜落する山精に向かい、浅黄が再び、斬り込む。だが、斬撃を浴びせる前に、山精が地を転がり、空に向けてジャンプした。
 ここは、自分のサポートがあった方がいい。思った以上に、山精の動きはすばしこいようだ。
 右の袂から、銃弾を取り出す。この銃弾には、「呪符」が仕込んであった。
 装填し、咒を唱える。
「晃朗在太元(こうろうざいたいげん)、霊宝符命(れいほうふめい)、太上老君勅命急急如律令。鎮山精(ちんさんしょう)符!」
 咒の大意は「晃朗、太元にありて、霊宝を符にて命ず」だ。咒を唱えおわると、空中のアチラコチラに「咒字」が浮かんだ。それは「日」であったり、「王」であったりしたが、ほとんどは、字ではない、文字通りの咒字である。
 引き金を引くと、銃口から吐き出された弾丸が、空中の咒字を拾うように、あるいは咒字によって作られた見えざる「道」を「縫う」ように走る。咒字をなぞり、呪符が完成したと同時に、弾丸が山精に命中する。
 吐き気を覚えるような声を上げて、山精が結界の壁に激突する。そのタイミングを計ったかのように、浅黄が剣をかざして突進した。
 今度こそ、山精を両断にしたと思ったが。
 ガラスが割れるような音がして、結界の壁が砕け散った。どうやら、浅黄の一撃は結界もろとも、山精を斬ったらしい。だが。
「……逃げられたか」
 割れた結界から、山精が逃げたのが感じられた。どうやら、致命傷を与える事は出来なかったらしい。
 浅黄に駆け寄り、紫雲英は言った。
「……どうなるンスか?」
 紫雲英自身、ディザイアや、禍津邪妄と闘うのは、これでまだ五度目だ。だが、これまでは仕留め損なう事はなかった。
 浅黄は苦々しげな表情で言った。
「また、現れるって事になる。その時に、倒すしかない」
 そして、つけ加えた。
「攻撃に耐えた。それだけ、欲念、執着が強い、ってことか」


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