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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第229回   拾の十五
 八月十二日、土曜日。
 午前十一時、僕は、古港の東側にある、海浜公園に来ていた。ここは正確には「岩崎西・海辺の公園」っていう名前らしいけど、多くの人は「海辺の公園」とか「海浜公園」って呼んでるんだそうだ。
 快晴の日射しが降り注ぐ中、僕は、公園入り口にいた。この公園には、いくつかのファストフード店や、遊泳までは無理だけど波打ち際と砂浜の他に、アトラクションを展開できる広場がある。この広場は、外から見る限りだけど、観客席も含めると結構広くて、小学校のグラウンドの、半分ぐらいはあるんじゃないかな?
 そろそろ約束の時間だな。僕が、通りの方を向いたとき。
「どういうことッスか、心さん?」
 紫雲英ちゃんの不機嫌そうな声がした。その近くには、天夢ちゃん。天夢ちゃんは、微妙な表情だ。笑顔とも困惑ともつかない、そんな表情。
 実はこれ、貴織さんのアイディアなんだ。「みたま」でいろいろ話して(もちろん、天夢ちゃんの「事情」までは、話していない)、その時に、言われたんだ。

「じゃ、救世くんとしては、おつきあいする気まではないんだ?」
「ええ、天夢ちゃんは美少女だし、紫雲英ちゃんも可愛いから、嬉しいけど、なんか、発端が違うような気がするんです。それに、多分、猿太閤を倒せば、テイボウも活動する必要なくなるし、そうしたら、僕は、この街を去るし。そんな日は、そう遠くないと思うんです」
 僕がそう言うと、貴織さんが「真面目だなあ」なんて言って苦笑いを浮かべた。
「君が抱いてる想い、正直『固すぎる』と思うけど、それが君のメンタリティなら、仕方ないわ。よし! じゃあ、お姉さんが、とっておきの策を授けてア・ゲ・ル」
 意味深な笑みで、貴織さんが僕を見る。
「なんですか、とっておきの策、って?」
 何か不安になったけど、僕はそれを聞くことにした。

「いやあ、なんていうか。二人とも、とっても素敵だし。僕としては、どちらか、なんて、選べないんだ。だから、さ。今日は、三人で楽しもうよ」
 貴織さん曰く。
「優柔不断とか、両天秤とか、相手にとっては、メチャクチャ頭にくることなの。ふざけんな、ってね。二人とも、使命感は持ってるから、テイボウの隊員として、公私混同はしないと思うけど。そのかわり、プライベートは、壊滅的なことになると思うけど、そこは、諦めてね」
 まあ、仕方ないよな。
 紫雲英ちゃんは腹を立てて……。
「心さん、底が浅いッスよ」
 と、紫雲英ちゃんが鼻で笑った。
「……え?」
「どうせ『二股かける振り』すれば、私か天夢ちゃん先輩か、どっちかが呆れるだろう、って思ってたんでしょうけど。つきあいは短いですけど、心さんが、こんなことする人間じゃないのは、わかってるッス。なめないで欲しいッスねえ」
「え、いや、あの、紫雲英ちゃん?」
「それに、私、そういうシチュ、気にしないッスよ? それだったら、絶対、自分の方に振り向かせるって気になるし! ……まあ? 天夢ちゃん先輩みたいに? 自分の気持ちがフラフラしてる人は、ここからUターンするのが、いいッスけどねえ?」
 と、意地の悪そうな笑みで、紫雲英ちゃんが天夢ちゃんを見た。一瞬だけど、天夢ちゃんがムッとした表情になって、言った。
「あたし、決めたの! 自分の中の『何か』を、解決させるって!」
「それ、心さんに失礼とは思わないンスか?」
 変わらず、意地の悪い笑みの紫雲英ちゃんに、ちょっとムキになった天夢ちゃんは言った。
「あたし、お兄ちゃん、好きだもん! 救世さん、お兄ちゃんにそっくりだもん! だから、あたし、救世さんのこと、好きだもん!」
「天夢ちゃん、言ってること、ムチャクチャになってるけど、気づいてる……?」
「救世さんは、黙っててください!」
 なんか、天夢ちゃんがいつもと全然、雰囲気が変わってるけど、大丈夫かな?
「困った人ッスねえ。それ、本当に『好き』って、いえるンスか?」
 鼻で嗤う紫雲英ちゃんに、天夢ちゃんはまだ論理的でも何でもないことを言ってるけど。
 僕は、海の方を向いて、心の中で叫んだ。

 貴織さーん! 話が違うじゃないですかー!


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