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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第226回   拾の十二
「夜」。
 帝都文明亭に、僕、千宝寺さん、浅黄さん、貴織さんがいた。で、浅黄さんたちが、奇妙なうわさ話を拾ってきたという。
 貴織さんが、コロッケをほおばって言う。
「『懐胎秘法(かいたいひほう)伝授之會(でんじゅのかい)』……要するに、赤ちゃんを授ける秘法を授けます、っていう、グループがあるんだけどね? これ、八ヶ月前から、活動していることになってるの」
 千宝寺さんが腕組みをする。
「八ヶ月前から活動している、か。ディザイア臭いな」
 浅黄さんが頷く。
「俺が勤めてる役場でも、噂になってる。中には、その會で伝授してもらった『秘法』のおかげで、子どもを授かって、今、奥さんが妊娠五ヶ月だ、っていう職員もいる。もちろん、前はそんな話、全然、出てねえ」
 これは、ますますディザイアっぽいなあ。
「ああ、あと、この間、メールで届いた、日本刀の『村正』を所持しているっていう届け出なんだが」
 この間、天夢ちゃんからの報告で「もしかしたらムラマサは、村正の銘を切った刀を縁として、出現しているのではないか?」っていうのがあった。検討の結果、チェックしてみてもいいだろう、ってことになったんだけど。
 白倉さんは、猿太閤対策で、そっちに注力しないとならない、白倉本家は、根拠曖昧なことに割く人員はない、ってことで、浅黄さんがこっちで役場の人脈を使って、刀剣管理の許可を出す部署……文化財保護委員会っていうところらしい……を調べるって事になったんだけど。……地道に。
「今日、そのリストが届いたんだけどさあ」
 と、うんざりした表情で、椅子にかけた上着のポケットから、何枚かの、わら半紙を出した。
「確認できるのは『大正十二年界』に限るから、楽勝だと思ったが、結構広いんだなあ、大正十二年界って。ほぼ現実の東京と変わらん」
 リストアップしてある件数こそ、百数十件ぐらいだったけど、ホント、広範囲にわたってる。現実の東京にはない地名もある。僕は、リストの地名を指さして言った。
「この大和村(やまとむら)、って読むんですかね? どこですか?」
 浅黄さんが言う。
「大和市かな?」
「じゃあ、この太西村(おおにしむら)……か、たさいむら、か。これは?」
 浅黄さんは「さあ?」と首を傾げた。貴織さんも、「うーん」とか言ってる。
 千宝寺さんを見ると。
「すまん。私も知らん。そもそもここの地理は、本来の東京とは随分と、かけ離れたものになってしまっている。浅草も『浅い草』から、『麻の草』に、字が変わっているしな。これも、そういう村の一つかも知れん。何にしても、現時点で『不変』となっている地図を手に入れる必要がある」
 確かにそうだ。
「それはそうと」
 と、千宝寺さんが言った。
「その『懐胎秘法伝授之會』の関係者か代表者か。名前がわかるか? 念のため、調べておけば、結城さん経由で何かわかるかも知れん」
 それには貴織さんが答えた。
「それがさあ……。代表者って『あやま かのか』だって」
「……なに?」
 千宝寺さんが眉をひそめる。
「どういう字を書く?」
「えっとね」
 と、貴織さんは懐から、わら半紙を出して、万年筆で「阿山果花」と書いた。
 それを見ていた千宝寺さんが「まさか」と呟くと、貴織さんも「あたしも、まさかと思うんだけどね」と答える。二人とも、困惑そのものの表情だ。
 二人に声をかける雰囲気じゃないんで、僕は浅黄さんに尋ねた。
「どうしたんですか、二人とも?」
「ん? なんかさ、前、テイボウに『阿山大佑(あやま だいすけ)』っていう人がいたそうだが、その人の奥さんの名前が、この字……『果花(かはな)』をひっくり返した『花果(はなか)』って書いて、『かのか』っていうらしい」
 偶然……。
 いや、偶然で片付けるにしては、あまりにも似すぎているな、この名前。


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