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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第223回   拾の九
 毎日、場所は変わるんだそうだけど、今日は麻草だそうだ。なので、僕、千宝寺さん、そして、那川さんの三人で、行くことにした。
 道々、昔話なんかも聞いた。なんか、千宝寺さん、テイボウに入った頃からすごかったけど、それでも最初の頃は「力」の制御がうまくできなくて、「離(リ)」……火の力で半径十メートル程度の範囲を焦土にしてしまったり、「坤(コン)」……地の力でビルを数棟、地盤を崩して倒壊させてしまったり。
 でも、僕が驚いたのは、あるディザイアに同情して見逃してしまったっていう話だ。
 千宝寺さんが、苦い顔で那川さんを見て、小さい声で「余計なことを」なんて言ったけど、話の流れ上、言わないとならないと思ったらしく、話し始めた。
「四年前に私がテイボウに入って、半年ほど経った頃だ。……そのディザイアはいわゆる『復讐鬼』だったらしい。詳しい事情まではわからないが、復讐される対象も、まあ、それなりに『悪い』やつでな。せめてここで復讐することで、気が晴れるなら、心が救われるなら、と思ってしまったんだが……」
 少し間が空いた。その間は、千宝寺さんの気持ちの整理だったらしく、立ち止まって、言った、無感情に。
「遠方の県で、金融業者が襲撃され、一人が死んだ。犯人は犯行後、自作の爆弾で自爆。それにより、付近にいた通行人の内、さらに一人が重傷となった。幸い、通行人の方は一命は取り留めたが」
 そして、千宝寺さんが「ディザイアが名乗っていた」という名前を口にした。
 そのニュースは僕も覚えてる。高校受験を控えて、いろいろ神経質になってた頃だったから、記憶に残ってるんだ。その時の犯人の名前、今聞いたディザイアの名前と、よく似てる。多分、名前の一文字を、訓読みから音読みに変えたら、同じになるんじゃないかな?
 那川さんが言った。
「辛いことを話させて、御免ね、千紗ちゃん。でも、この話、救世くんも聞いておいた方がいいと思ったんだ。……救世くん。ここで君たちが取る行動は、顕空で大きな影響力を持つ。だからこそ、使命感を持ち、感情に流されないで欲しい。……って、僕も人のことは言えないけど。僕も、何度かディザイアを見逃したことがあるんだ。その時は、当時、メンバーだった阿山(あやま)さんや、太乙(たいき)さんにフォローしてもらったりしたんだけどね」
 頭をかきながらの、那川さんの言葉に、僕は改めて自分の役目、ていうものに、思いを馳せた。
 そういえば、以前、面河さんからこんなことを言われたな。

 なあ、救世。十人全員を救えれば、それが一番いい。だが、なかなかに難しい。
 だがな。人間、必ず救われるし、救われなきゃならん。その道を探すのも、テイボウの役割だ。俺はそう思ってる。
 まあ、理想論でしかないがな。だが、ただ単に「しなけりゃならないから」とか、「使命だから」ってだけで、理想を追求しなかったら、それは、ただの「作業」だ。救世、お前がするのは、一体なんだ? お前が授かったお役は、一体、なんだ? よーっく、考えろ。

 ちょっと考えると、今の那川さんの言葉と両立しないように思うけど。
 でも、この言葉も、なんか正しいように感じてるんだ。
 僕がいろいろと考えていると。
「おかがみさまの、おなりである!」
 そんな声が、車道を挟んだ向こう側から聞こえてきた。
 僕たちは、その方を見る。


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