「今回、どうしてここに来たのか、わからないんだ」 帝都文明亭で、僕たちは話をしていた。ちなみに、紫雲英ちゃんは来ていない。千宝寺さんの話では、ほかに貴織さんと浅黄さんが来ているらしいという。 「救世くんもわかってると思うけど、ここに来る人の中で、護世具を手にする者は、消してしまいたい過去や、過去に対して、なんらかの大きな悔やみを持っていたりするんだ」 「……え? ちょっと待ってください?」 話の途中だったけど、僕は言った。 「過去に悔やみ、って。僕、特にそんなもの、持ってませんけど?」 「え? いやいや、それはないでしょ。みんな、そうだったし。……ああ、多分、自覚がないんだね?」 ……。 申し訳ないけど、本当にそんなものには思い当たらない。そりゃあ、生きてきて、イヤなことは山ほどあったけど、話しぶりじゃあ,それはものすごく大きなもののはず。そこまでのものは、僕は持っていない。 僕の困惑をよそに、那川さんは、話を続ける。 「まあ、心当たりがないかっていうと、そういうわけでもないけど、僕の中では、一応、区切りはついてるんだ。だから、ここに来るほどのことじゃないはず」 不思議そうに首を傾げる。 しかし、それを脇に置いて、那川さんは言った。 「千紗ちゃんから、ちょっと聞いたけど。なんか、猿太閤とかいうのが、現れたんだって?」 「ええ。もしかしたら、魔災の『種』なんじゃないか、っていうことになってるんですけど」 僕がそう言うと、千宝寺さんが後を続けた。 「まったくの未知数なんで、どう対応するべきか、検討することさえできない状態なんです」 「そうなんだ。……一応、また護世具が使えるような感覚はあるんだけど、多分、戦力にはならないと思うから、期待はしないで欲しいな。もう、道場には通ってないから、『カン』も鈍ってるし」 那川さんがそう言ったとき、文明亭の大将・宇多木さんと、女性のお客さんの会話が耳に入った。 「宇多木さん、知ってるかい、『おかがみさま』のこと?」 「『おかがみさま』? なんだい、そりゃあ?」 「もう、半年以上も前から評判になってるんだけどね。ある『鏡』があるんだそうでね。その鏡を見つめると、死んだ人が出てきて、お喋りできるんだってさ!」 「へえ、眉唾だねえ」 それを聞いて、僕は引っかかるものを覚えた。 半年前から評判になってる。 今まで、何度かループを体験しているけど、今まで、そんな話、聞いたことない。 それは千宝寺さんも同じだった。千宝寺さんが僕に頷いて、椅子から立ち上がり、その女性客のところに行った。 「すみません、その『おかがみさま』なんですけど。どこへ行ったら、会えますか?」
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