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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第222回   拾の八
「今回、どうしてここに来たのか、わからないんだ」
 帝都文明亭で、僕たちは話をしていた。ちなみに、紫雲英ちゃんは来ていない。千宝寺さんの話では、ほかに貴織さんと浅黄さんが来ているらしいという。
「救世くんもわかってると思うけど、ここに来る人の中で、護世具を手にする者は、消してしまいたい過去や、過去に対して、なんらかの大きな悔やみを持っていたりするんだ」
「……え? ちょっと待ってください?」
 話の途中だったけど、僕は言った。
「過去に悔やみ、って。僕、特にそんなもの、持ってませんけど?」
「え? いやいや、それはないでしょ。みんな、そうだったし。……ああ、多分、自覚がないんだね?」
 ……。
 申し訳ないけど、本当にそんなものには思い当たらない。そりゃあ、生きてきて、イヤなことは山ほどあったけど、話しぶりじゃあ,それはものすごく大きなもののはず。そこまでのものは、僕は持っていない。
 僕の困惑をよそに、那川さんは、話を続ける。
「まあ、心当たりがないかっていうと、そういうわけでもないけど、僕の中では、一応、区切りはついてるんだ。だから、ここに来るほどのことじゃないはず」
 不思議そうに首を傾げる。
 しかし、それを脇に置いて、那川さんは言った。
「千紗ちゃんから、ちょっと聞いたけど。なんか、猿太閤とかいうのが、現れたんだって?」
「ええ。もしかしたら、魔災の『種』なんじゃないか、っていうことになってるんですけど」
 僕がそう言うと、千宝寺さんが後を続けた。
「まったくの未知数なんで、どう対応するべきか、検討することさえできない状態なんです」
「そうなんだ。……一応、また護世具が使えるような感覚はあるんだけど、多分、戦力にはならないと思うから、期待はしないで欲しいな。もう、道場には通ってないから、『カン』も鈍ってるし」
 那川さんがそう言ったとき、文明亭の大将・宇多木さんと、女性のお客さんの会話が耳に入った。
「宇多木さん、知ってるかい、『おかがみさま』のこと?」
「『おかがみさま』? なんだい、そりゃあ?」
「もう、半年以上も前から評判になってるんだけどね。ある『鏡』があるんだそうでね。その鏡を見つめると、死んだ人が出てきて、お喋りできるんだってさ!」
「へえ、眉唾だねえ」
 それを聞いて、僕は引っかかるものを覚えた。
 半年前から評判になってる。
 今まで、何度かループを体験しているけど、今まで、そんな話、聞いたことない。
 それは千宝寺さんも同じだった。千宝寺さんが僕に頷いて、椅子から立ち上がり、その女性客のところに行った。
「すみません、その『おかがみさま』なんですけど。どこへ行ったら、会えますか?」


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