八月十日、木曜日、午後十一時。冥空では八月十五日、午後三時半。 僕は帝都駅、駅前に来ていた。そして。 「……なんなんだ、これ? どういうこと……?」 帝都駅前大広場の一角に、真新しい四階建ての建物がある。その名前は。 「帝星建設」。 この間まで、こんなものはなかった。なのに、今は、こんなものがある……! 一応、簡単には調べたんだ、帝星建設のこと。上石津市に本社があって、県内に支社が二つ、県外に六つ。東京には今のところ営業所しかないけど、数年の内には、本格的に進出する予定がある。で、 「創業、大正十三年三月……」 呟いて、僕は建物に近づく。まだ、出来たばかりのようで、本格的に稼働するのは、まだ先らしいけど。 もともとは、関東大震災の復興に携わった工務店だったらしい。大震災の後に、本格的に「帝星建設」として、名乗りを上げたという。ということは、どんなに考えても、大正十二年の八月時点で、ここに存在するはずがないんだ。いったい、なにがどうなって? そう思いながら、僕は建物を観察する。 そんなことをしていたら。 「救世、何やってるんだ?」 背後から声がかけられた。振り返ると、そこにいたのは、伊佐木と沢子さん。沢子さんは、何だか大きな風呂敷包みを抱えてる。 「ああ、伊佐木。いや、ちょっと、この建物が気になったから、さ」 「気になった?」 「ああ」 さすがに、「いきなり出現した」とは言えないから、適当にごまかすことにする。 「いや、さ。立派な会社なんだろうなあ、って思って」 伊佐木も見上げる。 「そうだなあ。ここにこれが出来るっていうのは、前から聞いてたけど、実際にこうして見てみると、帝都も、世界に冠たる一大都市になるんだろうなあ、って気がするぜ。この帝星建設は、この街、ひいては、この国を背負う会社だっていうしなあ」 詳しくわからないけど、帝星建設は「既にここに存在していた」ことは間違いないようだ。 適当にタイミングをはかって、僕は言った。 「どうしたんだ、二人して?」 「ん? ああ、おさわちゃんが藪入りだからさ、駅まで見送ろうと思って」 と、二人で顔を見合わせ、微笑みあう。なんか、前より、妙に親密になってるように感じるな? ……もしかして、二人が縁を持っている顕空の人が、変わった、とか? なので、確認する意味で、僕は聞いた。もしプロフィールが変わっていたら、心構えだけでもしておかないと。 「沢子さんって、故郷(くに)は、どこだっけ?」 「私? 私の故郷(くに)は浜松ですけど? どうしたんですか、いきなり?」 笑顔で、沢子さんは答える。……なるほど、いつの間にか、変わってたのか。なんとなく思うんだけど、着ている服が変わった辺りから、顕空の人との繋がりに変化が及び始めたのかも知れない。 とにかく、前もって聞いていてよかった。いきなり知ったら、混乱して何を口走るか、わかんないもんな。
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