紫雲英ちゃんが御札を出して言った。 「わたしたち『テイボウ』のメンバーは、禍津邪妄や、ディザイアと遭遇したとき、それを知るために、呪符が教えてくれる事になってるンスよ」 「呪符、って、そんなもの、預かった覚えないけど?」 「わたしにもわからないッスけど、こっちに来たときに、手に入れてるみたいッス。普段は意識できないみたいッスけど」 なるほど。いろいろ不思議な仕組みになってるみたいだ。 合崎の表情が、豹変した。喩えでも何でもない、まさに、化け物の顔だ。 沢子さんが、甲高い悲鳴を上げ、失神した。倒れ込んだ彼女を抱き起こそうと駆け出したとき、合崎の姿形が変わった。 毛むくじゃらの体に、二本の腕、一本足。 それを見て、梓川さんが言った。 「山精(サンショウ)だわ」 僕が首を傾げたんで、浅黄さんが教えてくれた。 「本来は山に住んでる妖怪なんだがな。地方によっては、旅人の荷物を盗む、女を騙す、なんていう言い伝えがあったりする」 何にしても、あんな怪物じゃ、うかつに沢子さんに近づけない。いったんひくと、なにかの気配がした。 振り仰ぐと、天から何かが降りてくる。それは、金と銀の勾玉。大きさは五、六センチ程度だろうか。あの夜、僕のところに降りてきたものと同じだ。そして、今回、金色は浅黄さん、銀色は紫雲英ちゃんのところに降りた。 つまり、この二人がアタッキングメンバーに選ばれたということ。 二人が勾玉を手に取り、胸に当てる。 「鎧念招身(ガイネンショウシン)!」 二人の声がハモった。 これが「変身」のキーワードだ。アタッキングメンバー……護世士は、勾玉を手にする事で、戦闘態勢になる。着ているのは、大体は「服」だそうだけど、実質は「鎧(ヨロイ)」らしい。そして、その格好は、顕空現界つまり現実世界で、戦闘に匹敵、あるいはそれに次ぐぐらいの霊力を使った時に着ていた服装に、近い物になるらしい。 閃光に包まれて「変身」した浅黄さんの格好は、黒いワイシャツに黒いスラックス、黒い革靴、前を開けた白いロングコート。浅黄さんは、現実世界で、これに似た格好の時に強力な霊力を使ったらしいって事。 わからないっていうか、僕があっけにとられたのは、紫雲英ちゃんの格好だ。初めて見るけど。 ピンクの、ノースリーブのチャイナドレスだけど、裾は膝上十五、六センチ。黒いオーバーニーソックスは、エナメルっぽい光沢があって、同じくエナメルっぽい白いパンプス。左の肩になんだかSF物のアニメっぽい白い装甲があって、両腕とも肘から先に振り袖っぽい、白いものがついてる。 なんだ、これ? 彼女、一体、どんな格好しているときに、強力な霊力を使ったんだろう? 危険を感じたのか、山精が逃げ出した。 二人が追いかけるのを見ながら、僕は梓川さんと一緒に、沢子さんを介抱した。
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