そして。 「もし幹山さんからなんらかの『物的証拠』を渡されても、それは、証拠とはならないものです。意味のないものを持っていても、仕方がないでしょう? 私にいただけませんか?」 津島が訝しげな表情になる。 「それを判断するのは、私です」 「再三、申しましたが、幹山さんは間違った情報を手にしています。なので、私の方で、ただしたいんです、社会正義のためにも!」 少し考え、津島は「検討します」とだけ言った。 「検討」では困る。 そう思いながら、溢美は、自分の前にある、その喫茶店特製のグレープフルーツジュースを飲む。その時、津島が微妙な表情をしていることに気がついた。 「どうかなさいましたか? ……ああ、これ、おいしいですよ? ピンクグレープフルーツがベースになってて……」 「そうじゃないんです」 と、津島が苦笑いを浮かべた。 「私、グレープフルーツジュースが、駄目なんです」 「え? こんなにおいしいのに? もしかして、苦いのがダメ、とか?」 「いえ、そうじゃなく。好きなんですけど、今飲んでる薬が、グレープフルーツ禁止なんで」 「え? そんなことってあるんですか?」 そのような話、初めて聞いた。 脂質異常があって、医者から処方されている薬の中に、「グレープフルーツジュースとあわせて服用してはならない」というものがあるそうだ。 その時、津島がクシャミをした。 「お風邪ですか?」 なんとなく聞いてみた。 「ええ、この間から風邪気味で。こじらせないようにしないと」 「お気をつけてくださいね」 その言葉に、津島は苦笑いで頷いた。
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