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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第216回   拾の二
 監視していて、富士岡は、石毛社長の月命日に墓参したり、河川敷で生活している石毛建設の社員や合崎電業の社長だった男たちの様子を、それとなくうかがいに行っていることがわかった。これを修司は「不審な行動」と思ったのだろう。
「自分が告発したせいで、たくさんの人が不幸になった」と、自責の念を抱いているのは、間違いないが、だからといって、警戒するほどのことはない。そう思っていた。
 だが、この五月末のこと。いつものように、終業後に富士岡のパソコンをチェックしていて、あるサイトにアクセスしていることを知った。
 津島行延、フリーのジャーナリストが開設しているニュースサイトだ。溢美は詳しくないが、修司や、周囲の人間に聞いた限りでは、業界ではそれなりに名の知れた存在らしい。
 そこで、さらに念入りにチェックすることになった。その結果、不審な行動が増えてきた。例えば、ある日、社屋駐車場の裏手にある植え込みに、封筒らしき物を置いたり……その封筒は、のちに、ある社員が取りに来た。調べたら、人事部労務管理課の幹山という男だった……、今度は、別の場所に封筒を置いたら、やはり幹山が取りに来たり。
 それと平行するようにして、富士岡はネットカフェに行くようになった。富士岡のあとでそのパソコンのアクセス履歴を調べ、試しに津島のニュースサイト名を打ち込んだら、津島のサイトが最優先候補で出てきたり。自宅のパソコンではなく、ネットカフェでアクセスするということは、自分の身元がアドレスなど、何らかの方法で、突き止められることを恐れている、ということか?
 このことを報告したら、修司は、「富士岡は、帝星建設と土原議員との繋がりについて、津島に何かを伝えようとしているのかも知れない」という結論に達した。
 この言葉から、その「繋がり」というのが、世間的に後ろ指を指されるものであるのは明らかだ。
 そこである晩、溢美の部屋で。
「賭けだが。溢美、お前、一芝居打ってもらえないか?」
「一芝居?」
「ああ」
 と、修司は言った。
「帝星建設と、土原議員との癒着について、幹山あるいは……。富士岡という男から接触がなかったか?、と」
「あら? いいのかしら、あからさまに『癒着』なんてワード、出したりして?」
 少し蔑んだように笑ってやると、修司も自虐的な笑みになった。
「そのぐらい刺激的な言葉の方が、向こうも食いついてくるはずだ。それで、もし、どちらかから、癒着の話を聞いていたら……。フェイクを伝えろ」
「フェイク?」
「ああ。『シナリオ』は、また考える。それでフェイクを伝え、もし何らかの『物的証拠』を手にしていたら、『それは精度が低い。確かな証拠を後日、渡すから、それを引き取りたい』とでも言って、取り上げろ」
 強引な計画のような気がしたが、案外、「情報提供者が複数いたら、向こうも、どちらが正しいか、吟味するだろう」とも思った。その結果、「どちらも信用に足るものではない」という結論になれば、「癒着疑惑」そのものが消えてなくなる。修司は、そう思っているようだ。
 そこで、富士岡を監視したが、目立つ動きは、相変わらず、社の敷地の、人目につかないところに封筒を置くだけ。だから、まず津島に連絡を取り、会うことにした。「土原議員との繋がり」という曖昧な表現にしたにもかかわらず、「先に同様の情報を手に入れたが云々」という返信があった。
 これは、富士岡か幹山、どちらかがすでに津島と連絡を取り合っていることを意味する。


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